幻蝶(その2)-7
「…わたしが、いいと言うまで出すのを我慢するのよ…ヤスオ…」と言いながら、亜沙子さんは
煙草の煙をゆっくりと吐き出す。
ずきずきとボクのものが疼き、亀頭の先端が透明な汁で潤んでくる。ボクはその蝶に向かって
ひたすら昇りつめているのだ。
一瞬、亜沙子さんの蝶が腿の付け根で蠢いたとき、ボクのものが小刻みに痙攣し、白濁液をたら
たらと射精したのだった。
「…なにやってんのよ…まだ、いいって言ってないでしょう…だらしないわね…」と言いながら
亜沙子さんは、ボクのものを足の爪で突く。射精したあとの萎え始めたペニスが喘ぐように歪む。
白い精液が溶けるように白々と照り光り、腿を流れていく。
「…あらあら、床まで汚しちゃったわ…」
そして、鼻で軽蔑するように笑う亜沙子さんは、床に溢れた精液を舐めることを、ボクに命じた
のだった…。
その三日後だった…。
「…いったい、どういうことなんだ…ヤスオ…亜沙子、泣いて帰ってきたんだぜ…おまえにホテ
ルに連れ込まれて、下着をズタズタに引き裂かれたうえに、犯されたってな…」
ボクは何のことだかさっぱりわからなかった。唇をぶるぶると震わせたトモユキは、ボクを殴り
倒した。ボクは地面に崩れるように倒れた。トモユキは、倒れたボクの急所を思いっきり蹴り上
げた。ボクは、気絶するほどの痛みに呻き喘いでいた。トモユキの靴底が地面に倒れたボクの頬
を踏みつけた。
トモユキは悔しそうに泣いていた。確かにうっすらと涙が滲んでいた。
地面に顔を踏みにじられるその苦しげなボクの姿を、そばにいた亜沙子さんは、うつむいたまま
じっと眺めていたのだ。
そう…笑っていた…確かに、狡猾そうな笑みを浮かべ、トモユキに踏みつけられるボクの姿を見
ていたのだ。
…どうして…どうして、亜沙子さんはウソを言ったの…
すっかり陽が沈み、まわりは漆黒の墨が滲んだような暗闇に包まれている。
ボクの部屋の窓からは、荒涼とした砂漠のような情景が、いつものように澱んだ暗い水底ほどの
静けさに覆われている。
アサちゃんに着せた花嫁衣装…あのとき見た亜沙子さんのウエディングドレスとまったく同じ形
をしたものだった。ウエディングドレスを着た亜沙子さんの姿がアサちゃんに重なる。
ボクはアサちゃんを抱きよせながら、指で強く握りしめた。
今日は亜沙子さんの結婚式の日だった。でも、あの出来事以来、トモユキがボクに電話をしてく
ることはなかった。もちろん、式にボクが呼ばれることもなかった。
白いドレスに包まれた亜沙子さんの素敵な姿が瞼の裏に浮かんでくる。
彼女の肌は、きっといつもより透きとおるように白いはずだ。祝うべき結婚式のはずだった。
おめでとうと言うボクの言葉が、自分でウソだとはっきりわかっている。
針でペニスの先を刺されるような痛みと切ない疼きが、ひたひたとボクの性器を充たしていく。