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狼さんも気をつけて?
【幼馴染 官能小説】

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狼さんも気をつけて?-5

***


 帰宅した明は夕食もそこそこに、自室へと引っ込む。
 厚めの青のカーテンで月明かりを遮ると、ベッドにうつ伏せ、深いため息をつく。
「はぁ……なんでこうなんだろう……」
 正直な話、明は夢のことが好き。部活帰りに一緒に帰るのも習慣になったからだけではなく、少しでも一緒にいたい、二人きりになりたいという本音がある。
 ペットボトル越しのキスですら冷静でいられないというのに、帰り道では夢のほうから距離を詰めてきた。明も告白を意識したのだが、ある邪魔者の存在でそれを断念した。
 放課後の甘酸っぱい一時を邪魔したモノ、それは東の空に浮かんだおぼろげな望月。
 十五夜にはまだ当分早いが、明にとっては一大事。なぜなら彼は人狼だから……。
 もっとも、満月を見たからといって、狼に変身できるというわけでもない。何世代か前は実際に狼に変身する者もいたらしいが、世代を重ねるごとに血が薄まり、明や彼の父親(母親は普通の人らしい)の代では、見た目が毛深いという程度である。
 明は普段から視覚、嗅覚が優れ、運動神経も並ではない。さらに極端な猫舌だったり、濡れるのを極端に嫌がるなど、おかしな特徴がある。もちろん、それだけなら『特殊な体質』といえるが、今だ残る人狼の血は、宵の空に浮かぶ青白い月の下で発露した。
 これまで何度も克服しようと夜空を眺めてはみたものの、月の満ち欠けに比例して昂ぶる感情は抑えようも無く、ただ乱されてきた。
(もし、あのままだったらどうなったんだろ? やっぱりキスしちゃったのかな?)
 枕を何かに見立てて抱きしめる明。ペットボトル越しに触れた夢の存在は、シナモンの香りがした。おそらく自分用にフレーバーティを淹れてきたのだろう。しかし、妄想の夢から香るのは、自分の髪の匂いだけ。
(いやいや、もしかしたらもっと大胆になるかも。例えば……)
 夜の闇に紛れて疾走する影。赤い屋根の家に忍び寄り、風に偽装し窓を揺らす。
 得体の知れない気配に、少女は窓に近づく。
 外に人影は無いが、代わりに夜空で煌々と輝く満月を見つける。
 宵闇を青く薄ぼかし、優しい光で街を照らす月……。その光景に心奪われた少女は、無用心にも窓を開け放つ。瞬間、窓枠を掴む者が現れる。少女は何事かと思考する暇もなく、力強い腕に抱かれ視界が宙返り。強い力で冷たい床にねじ伏せられ……。
(ダメダメダメ、そんなのダメだ! 俺は純粋に夢が好きなんだ。発情期の雄犬の真似がしたいんじゃない。もっと精神的っていうか、健全な気持ちで向き合いたいんだ!)
 その為には『人狼の特性に打ち勝つ必要がある』と考える明だが、昼間の走り高跳びと同様、目処はついていない。そもそも背面跳びを嫌うのも『背中を下にするのが不安でしょうがない』という、極めて動物じみた理由からだったりする。
 時計は既に〇時を回っていた。明は答えの出ないロジックに見切りをつけ、目を瞑る。
「……それじゃあオヤスミ、愛しているよ、夢……なんてね」
 寝る前に愛を告白するのは雨の放課後以降、一日も欠かしたことのない行事。
 明にとっては人狼の特性に対する精一杯の反目である。もっとも、無意識のうちに腕を交差して顎を乗せるのは、彼がそれに抗えない証拠。
 はたして、月に心惑うことなく想い人に向き合える日は、来るのだろうか?



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