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狼さんも気をつけて?
【幼馴染 官能小説】

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狼さんも気をつけて?-1

 鬱陶しい梅雨があけた。私立商館高校のグラウンドでは、久しぶりの晴天の下、生徒達がクラブ活動に汗を流していた。
 群雲明もその一人。彼は陸上部に所属しており、走り高跳びを選択している。
 今、彼が正面に見据えているのは、一八五センチの高さにセットされたバー。自己ベストを五センチ上回る程度の高さだが、これがクセモノ。これまで何度も挑戦し、その都度阻まれてきた、まさに超えられない壁、もとい越えられぬバー。
 甲高い笛を合図に明は颯爽と駆け出す。踏み切り手前のマーカーを目印に歩幅を調整、タイミングを見計らって大地を蹴ると、身体は一瞬の無重力に包まれる。
 右足がバーを乗り越え、左足を水平に持ち上げる。ここまでにミスは無い。
 会心の飛翔に今度こそ記録更新……と思いきや、勢いに乗り切れなかった左足がバーに触れてしまい、着地と同時にカラカラと空しい音を響かせる。
「……群雲、やっぱりフォームを変えたほうが良くないか?」
 跳躍より失敗の記録更新に励む明に、顧問の土田が苦言を呈す。
 正直な話、正面跳びが通用するのは体育実技か中学陸上まで。高校以上となると小規模な大会でもベリーロールが必須となり、さらに上位を目指すなら背面跳びが必要となる。
「監督、もう少し挑戦させてください。あとちょっとでいけそうなんです」
「挑戦するのは悪いことじゃないが、記録が全てだからな」
 土田も陸上部顧問としてフォーム変更を指導すべきだが、挑戦したいという明の態度をみると、教師という立場からか、無碍にその姿勢を否定することが出来ずにいる。
「ま、跳ぶのもその結果も、全ては群雲の問題だからな。後悔の残らないように頼むぞ」
「はい、分かりました!」
 土田は彼の元気の良い返事に納得したのか、それ以上言わず、次の部員に向かって号令を出す。しかし、実際のところ、明は記録更新の目処がついていない。
 身体能力を強化すれば記録更新もできるかもしれない。だが、それは足し算的な発想でしかなく、すぐに同じような壁にぶつかると予想される。求められるのは、あくまでも乗算的な上達方法であり、結局フォーム変更に行き着き、除算的思考でそれを拒み、思考回路は堂々巡りを繰り返す。
「はい、タオル! 明、汗びっしょりだよ」
 明るいハリのある声を合図に、明の視界がファンシーなクマで覆われる。
「あぁ、夢か……。サンキュ、久しぶりだから余計に汗かいた……」
「なぁに? そのしょんぼりした感じ、もっとしゃきっとしなさい! しゃきっと!」
 ボーイッシュな短髪と子猫のようなまん丸の大きな目、少し低いけど整った鼻、ふっくらとした上唇からたまに覗く八重歯が魅力的な彼女は、マネージャーの夜神夢。
 ダサいレンガ色のジャージはサイズが一回り大きく、身体の凹凸を隠してしまうが、水泳の授業を覗いた奴の話だと、成長著しいとのこと。
 数少ない女子部員ということも手伝い、部ではちょっとしたアイドル的存在……なのだがこの娘、実は少々困った趣味がある。それは過剰なまでの少女趣味。
 例えば、今まで五枚一組の安タオルだったのが、夢がマネージャーになってからというもの、クマやウサギの可愛らしいプリント付きに替わった。しかも、
「あーちょっとっ! クマ吉で変なとこ拭かないの。汚れちゃう!」
 そのタオルで脇の下を拭こうものなら、眉を吊り上げ烈火のごとく抗議してくる。
「汗を拭くなっていうのか? 何の為のタオルだよ」
「……あぁ、クマキチが明の脇なんかに汚された〜、しくしく、およよ……」
 わざとらしく泣き崩れるのも毎度の事。
「クマキチって……、部の備品に変な名前付けるなよ」
「名前とかあったほうが愛着わくもん! 皆だって大切に使ってくれるもん!」
 大切というより、むしろ使いづらいというのが大方の部員の本音だろう。
 そうこうしているうちに走り込みを終えた部員達が、滝のような汗をかいてやってくる。もちろん、愛くるしいタオルには彼らも苦笑い。


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