JoiN〜EP.FINAL〜-2
「ごめん、そろそろ出ないと怒られそうだ。じゃ今夜、また電話するよ」
『うん・・・』
せっかく栞菜が休みなのに俺はどっぷり仕事漬けだ。マネージャーは辛いねぇ。
フッ、だが逆にこの会えない時間が二人の愛を育むのさ。毎日会ってたら磨耗されてすり減り、やがては消えてしまう。
「うわっ?!」
トイレの前に赤鬼のお面をつけた何者かが腰に手を当て、ずっしりと仁王立ちしていた。
手には金棒ならぬ食べ掛けのコッペパン、相変わらず忙しそうですな。
「長い廁でしたな、日比野殿。楽しそうで何よりであります」
お面をわずかにずらし、覗かせる瞳は鬼そのもの。今にも真っ赤に光りそうで足が竦みます。
お怒りであらせられるのは、私めの手洗いが長いだけでは無い気がするのであります。
「さっさと勤務に戻るっす!ではこれにて御免!」
横を何もなかったみたいに通り過ぎようとした。
しかしすれ違い様に呼び止められ、足が釘を打ち込まれたみたいに動かなくなる。
「交際は順調のようね。幸せなのが聴いててとても良く伝わってきたわ」
「よ、抑揚の無い喋り方は止めてくださいよ」
「何度もやめろと言ったけど、あんたには糠に釘だったわね。もう・・・本当、人の話ちっとも聞かないんだから」
「だって一目惚れですよ。俺は俺に嘘をつけません!」
「平気で出任せばっか言ってるくせに・・・」
人を言い負かす事にかけては無敗だった、と自称する立花さん。
その人に初めて黒星をつけたのはこの俺だ。いくら言ってもまったく堪えないらしい。
愛は全てに勝る原動力なのさ、俺が言うんだから間違いない。
「悔しいな」
立花さんが片頬を悪戯っぽく歪ませながら呟いてきた。
「初めて言い負かせなかった相手がいるからですか?」
「そうじゃない。栞菜よ。あんたと付き合い初めてから、いつも嬉しそうなの」
そりゃあ、独り身はつら・・・
と喉まで出かかって咄嗟に飲み込んだ。いくら俺でもここで言ったらまずいのは分かる。
でも単に彼氏が出来たのが羨ましいだけじゃない気がする。
「私なりに栞菜を励ましてきたつもりだったけど、あまり自信に繋がらなかったみたい」
立花さんも気付いてたか。栞菜が、自分に対して自信を持っていない事。
うまくカメラの前で笑えないのは、自分と向き合えてないから。自分を好きじゃないからだろう。
「だから、悔しいの。あんなキラッキラした顔にさせたあんたに負けて」
「はっはっはっはっ。まあ当然ですよ、俺にかかれば輝かない女などいません!」
「むかつくわねその歯。無駄に白くて並びもいいし、あんたには勿体ないわ」
最近の栞菜は、以前みたいにうまく笑えなかったのが嘘みたいに笑顔が眩しい。
フッ・・・やはり恋は女に魔法をかけるんだ。レンズの向こうに、恋する相手が見えるんだな。
・・・俺、マネージャーになって良かったと心から思うぜ。