〈蠢く瞳〉-5
『君の教え子が、大会で活躍したそうじゃないか?』
あの部屋で、またも男達は談笑していた。
隠し撮られた夏帆の写真を手渡し、有海が清らかな涙を流した大会、その試合の一部始終を記録したVTRを観賞していた。
『しかし……最近のテニスは“質”が落ちましたな』
『全く、ブサイクな娘しかいない』
『私の学校もブスしかいませんし……ハハハ』
やはり男達の価値観は、そこしかないのだろう。
少女の価値を容姿でしか計らない、そんなくだらない連中だ。
『あの猫みたいな娘、アレは可愛くなりましたな』
『まあ、それでも夏帆ちゃんには負けますけどねぇ』
部屋中に笑い声が響き、夏帆の写真が床にばら撒かれた。
その写真を踏み付け、ニヤリと笑う男達……隠していた異常な性格が、早くも顔を覗かせた。
『あまり厳しい練習はさせたらイカンぞ?夏帆ちゃんが退部したら悲し過ぎるからな』
『邪魔くさいブスの新入部員は、シゴいて退部まで追い込みましたがね。夏帆には優しくしてますよ、あの娘のテニスのセンスは最低ですから。練習なんて無意味ですよ……フフ………』
テニスの顧問とは思えぬ言葉に、男達はゲラゲラと笑った。
田尻もまた、他の男達と一緒に笑った。
夏帆がテニス部に入部してから、田尻は一度も接触してはいなかった。
言葉を交わす事も、指導する事もなかった。
顧問としての確かな眼力は、一目で夏帆のプレイヤーとしての限界を見切っていたし、あまり生徒としての“感情”を持ちたくなかったのだ。
自分達の欲望を、欲求を満たす為だけの存在……夏帆は、最初からテニス部員としては思われていなかった。
スポーツに打ち込む少女の気持ちなど、端からどうでもいいのだろう。
『今年は田尻先生の学校がココを使うんだよね?』
もう我慢出来ないといった表情で、男達は田尻を見つめた……不気味な笑い声が、部屋の空気をブルブルと揺らした。
『……来週から夏休みですから、10日間の予定で……』
田尻も笑いを噛み殺すように、ゆっくりと語りかけた。
毎年、誰かが途中で抜けていく、悪夢の合宿が今年も始まる…………。