最後の夜・後編-2
「ハッ…図星のようね。二人に何があったかは知らないけど、姫様をあんな風にしたのは間違いなくあなたよ」
アンが悔しそうに顔を歪めた。
「毎夜毎夜、声を押し殺して泣きまくってるわよ。1日中床に臥せって食事も全然食べてくれない…っ。明日は挙式だっていうのに、あんな姫様もう見てられない」
「…俺には関係ない…」
「関係ない?!関係ないですって?!誰のせいであんななってるのよ?あんた姫様を殺したいの?このままじゃ本当に病気になるわ!姫様は明日結婚する。それは変えられない。でも姫様を好きなら、傷つこうが何だろうが責任をとりなさいよ」
「……」
「ロイ、あなたが姫様をあんな風にしたの。責任を取って元の姫様に戻して。あなたにしか出来ない」
「…アン」
「お願いだから、あんなやつれた姫様のままほっとかないで…関係ないなんて…死んでも言わないで…」
姫様を孤独のままにしないで…
おそらく最初で最後の恋を、こんなカタチで終わらせないで…
アンの瞳にはうっすら涙が滲んでいた。
自分のしていることが正しいことじゃない事は百も承知。でも大切なガーネットのために、何かせずにはいられなかった。
――今夜は雲ひとつなく、星も月もよく見える。
ガーネットはベットの上でぼんやりと窓から見える夜空を見ていた。
部屋の荷物が明日から使う夫婦の寝室に運び込まれていてがらんとしている。
時おり口をつく溜め息がよく響いた。
明日、ついに結婚するのね…
式を挙げ、神父の前で誓い合えば永遠に夫婦になる。
私はルーク王子のものになる。
一人の夜は今夜で終わり。私が自由な最後の夜…
コツンッ
「?」
窓に何かが当たったような音がした。しばらくするとまたコツンと音がする。
――もしかして…?
淡い期待に身体が素直に反応してベットから降り立った。
するとろくに食事をとっていなかった為か、身体に力が入らず重かった。
ゆっくりとした足取りで窓に近づくと、それに合わせて胸の鼓動も高鳴った。
ガタンと窓を開け放った。
「――っぁ!」
喉に絡まるような声が出る。
窓の下にはいつの間にかに梯子を架け、再び小石を投げようと振りかぶったロイがいた。
ロイ……!!
大声で叫びたかった。
重かった身体に一瞬で血が巡り、力がみなぎったように体温が上昇する。