過ぎ行く日々、色褪せない想い-7
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十月の始めの頃には、メールフォルダに五十件たまっていた。
全ては美琴とのやり取りだ。
彼女は家庭教師が始まる前と終わった後にメールをくれた。
相変わらず密室の彼女の部屋からは、白熱灯の弱い光が漏れるだけだったが、電子メールが繋ぐ絆がある。
悠はこれまで以上に部活に打ち込み、近く、大会に備えていた。
件名:体育の日
体育の日、試合があります。応援よろしく!
俺、マジで優勝狙っていくよ。
だから、美琴にも…………
少し前なら面と向かって応援を頼んでいた頃に比べると、やや弱い誘い。けれど、受験に向けて必死になっている彼女。今は疲れているであろうと、メールに気持ちを託すことにする。
そういう優しさを配慮できる自分は大人とほくそ笑み、送信を押す。
二分、三分、五分……。
志保の「お風呂でたよ〜」の声に、悠は替えの下着を手にした。
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雑念を振り払った彼に敵は無い。
新人戦のときは惜しくも敗れた相手にも、悠は怯まず果敢に攻め、相手の胴を払う一本勝ち。
大谷は彼の快挙をおおいに称え、ささやかながらファーストフード店で祝勝会を開いてくれた。
「それじゃ、高槻の功績を称えて、かんぱ〜い」
「「かんぱーい」」
部員一同、手にした百円シェイクをかふかふと交わす。
気の抜けた音に苦笑が漏れつつ、皆口々に今日の試合内容を振り返っていた。
ただ……、
主役であるはずの悠は鞄片手にトイレに走ると、急いで携帯をチェックしていた。
試合会場に彼女の姿はなかった。くまなく探したわけではないが、いつもなら見えるところにいてくれたはずなのに。
メールフォルダを調べると、最後に届いたメールは「明日がんばってね」という簡素なもの。
そこには「来る」とも「行けない」とも書いていない。
その前のメールを見る。
学校のことや、最近のドラマ、ニュース、漫画、雑誌、芸能人にアイドルグループ、全て他愛の無いことばかり。何も不自然さはない。
しかし、送信メールと照らし合わせると浮かび上がる。
彼女は自分の問いかけにほとんど答えていない。
いつでも言葉尻を濁し、明確な返事をせず、「オヤスミ」で締めていた。
予測変換で打たれる顔文字と似通ったものいい。句読点が少なく、改行と誤字だらけの内容は、最近になるにしたがって酷くなる。
おざなり。
その一言に尽きる。
彼が便器の上でコメカミを押さえていると、誰かがやってくる。