過ぎ行く日々、色褪せない想い-38
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時間的に遅いことから日を改めてと提案されたが、和子ががんとして引かなかった。
もし牧夫を帰してしまったら仲間に連絡が行き、報復なり証拠隠滅が図られる。
確実な証拠は確かに保護しているが、DVDなど別媒体に記録されているものがネットに流出したら、回収は不能。
事実を聞いてとんぼ返りをした大学の女性理事長は事実確認のために、関係者を一度会議室に集めた。
女性職員が改めて動画の内容を確認し、身体の特徴から牧夫であると確認されると、理事長は不祥事について頭を下げてくれた。
エクセルファイルに記録されている購入者はどれも部の身近な人間だけであり、特に学外への流出の痕跡は無い。
彼らとしてはネットで販売をするつもりだったらしいが、規制法と昨今の規制強化、さらに拙い手打ちのサイトでは客を集めることができずにいたらしい。
また、動画アップロードに関しては発覚の可能性が高いことと、足が着きやすいことから控えていたらしい。
全ては準備不足と保身ゆえ被害の拡大を防いだ、まさに不幸中の幸。だが、和子は牧夫の証言を信じようとせず、どこかにバックアップを隠していると疑っていた。当然のことながら、無いことの証明はできないと、言葉を呑む。
大学側としては映像研究サークルの活動を無期限停止とし、現状部室にあるものは証拠を隠匿されかねないとして、全て没収を言い渡す。また、塑逆性を持たないことと、指導するにはあまりにも度が過ぎていることから、警察へも連絡することを確約し、四人の目の前で警察と顧問弁護士に連絡を入れてくれた。
素早い対応に驚く悠だが、帰り際、長刀部の人が「今の理事長は今年就任したばかりで、去年までの運営を非難するための材料探しに躍起になっている」と教えてくれた。
悠は都合の良いだしに使われるのだろうと思いつつ、それでも事態が解決に向かうのならと、頷いたのだった……。
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悠と美琴家についたのは夜の十時を回った頃だった。
遅いこともあって車で家まで送ってもらった悠と美琴だが、彼女は何か言いたげな様子で、玄関に入ろうとしない。
それは悠も同じで、二人とも視線をそらしつつ、横目で盗み見していた。
「あ、あぁ……」
「う、うん……」
先ほどからなんどか出ては消える声。何を言ってよいのかわからず、かといってこのまま分かれる気にもなれず、ただ無意味に時間が過ぎる。
「なぁ、公園にでも行こうか?」
「なんで公園なの? もっと気の利いたところとかないの?」
ようやくの提案に美琴は少しご立腹の様子。ただ、最後は笑って歩き出してくれたので、悠もそれを追う。
夜更けの公園には誰もいない。
全てはあのベンチで始まったことなのだろうか?
和子からあのことを聞かされたときは、ただ美琴を守らねばならないと意気込んでいただけだが、こうして考えると、自分はどこまでそれができたのか、自信が無い。
「……久しぶりかな?」
「何が?」
「こうして二人で会うの……」
「そうでもないよ」
「そうだっけ?」
「うん」
最後に二人で歩いたのはいつだろう。四月の頃には既に気まずい関係になっていたしで、もしかしたら一年を数えるかもしれない。
「ねぇ、ブランコ乗ろうか?」
「は? いいよ、別に……」
「じゃあ決まり!」
悠としてはその逆の意味で言ったのだが、彼女はお構いなしにブランコに乗る。