過ぎ行く日々、色褪せない想い-23
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大勢の人が行き交う大城大学正門を前に、悠はどぎまぎしていた。
出る人も入る人も身分証の提示を求められるわけでもなく、フリーパス。必要なのは運送業者ぐらいのもの。
堂々としていれば良い……、はずなのに、悠はどうにも身構えていた。
和子はというと、これまた堂々としており、自然と悠が彼女に付き従うという風になる。
「先輩、もっとしゃきっとしてくださいよ……」
「だってさ、なんか悪いような……」
入り口にあった立て札には、関係者以外立ち入り禁止としっかり書かれている。
オープンキャンパスならともかく、平日において、はっきりいって二人は部外者だ。
そもそも、キャンパスの中でたった一人を探し出すことなどできるのだろうか? もし講義のスケジュール的に休みだとしたら? 事前に何も調べていない悠は、その無計画さに舌打ちする。
しかし、和子はというと、目的があるらしく、ずんずんと進んでいく。
「和子ちゃん」
「なんです?」
「どこに行く気?」
「部室です」
さも当然という様子の和子は、徐々に早足になる。
「部室?」
「ええ、牧夫は映像研究サークルに入ってます」
「なんで……」
知っているのかと聞きそうになり、口をつぐむ。彼女はあの男のあれの形も知っているのだ、些細なことを知っていたところで、別段驚けるはずもない。
「でも、入れるかな?」
「誰かいると思います。入部希望を装えば、多分いけますよ……」
入部希望どころか入学さえしていない彼女。豪胆にもほどがあると思いながら、悠は他に策が思いつかない。
そうこうしているうちに部室棟へとたどり着く。
二階建ての建物の一番端っこに位置する映像研究サークルの部室は、スモークのガラス越しにも部屋の散らかり具合が見え、人がいるのかわからない。
悠はひとまずドアに耳を当てて、中の様子を確認する。
人の気配はしないが、何かの動作音がぎっちち、ぎち、がちょと頻繁になっている。
「パソコンかしら?」
ポストを無理やり開いて中を見る。中受けは既に壊れているらしく、散らかった部屋には二台のデスクトップとノートブックが一台、それらは青い光を出しながら、何かをしていた。
無人を確認した悠がドアノブを動かすと、それは抵抗なく開いた。
「無用心だな……」
ここまできたらもう遠慮することもないと、悠は部室に勝手に上がり込む。
手近にあったマウスをちょんと触ると、画面がぱっと開き、何かの作業を伝えるバーがせわしなく動いている。
「なんだろ……」
普段パソコンを使わない悠には、触ってよいものなのかわからないが、和子はお構い無しにマウスを動かし、いくつかのフォルダを開いては閉じるを繰り返す。
3gpと書かれたフォルダを見つけたとき、彼女の手が止まった。
「どうかしたの?」
「いえ、なんでも……」
そのフォルダが開かれると、さらにファイルが見えた。
ファイル名は全て数字。最初は何のことかわからなかったが、どれも八桁の数字から始まり、先頭二桁は20。
「それってまさか……、なわけないか……」
ここは映像研究サークル。自主制作の映画と、その日付に過ぎないだろうと思い至る。
しかし、和子は無言のまま、ある一つを選択すると、かちかちっとクリックする。
画面に小さく開くウインドウ。赤、白、黄、青のバーが並んだと思ったら、急に暗転し、今度は青い画面が出る。
ファイルと思しき数字が出た後、どこかの部屋の様子が映し出された。
こぎれいなベッドと本棚、クッション、タンスに机。CDラックと散らばった漫画。部屋の様相はピンクが基調となっており、部屋の主が女の子であることを想像させる。