過ぎ行く日々、色褪せない想い-22
「いや、いいんよ。ウチが悠のこと監視してあげる。だから、来年は一発合格するんよ? 一緒に大学生になるためにね」
「ああ、がんばろう……」
納得がいった様子で頷く彼女。騙しているところもある悠は、むしろ彼女の目が見られないが、そこらへんは暗がりがフォローしてくれる。
「それじゃね」
「うん。そいじゃ……」
思わぬ約束を取り付けた悠だが、少し思い出して振り返る。
「なぁ、美琴は何を話したかったんだ?」
「ん〜ウチ? えっと、悠も最近彼女さんと上手くやってんのかな〜って!」
声を大にして言う彼女に面食らうが、言い切るだけで言い切ると、彼女はそそくさと玄関に消える。
それは誤解なのだといいたいが、余計なことを言えば和子にも迷惑がかかると、彼も家に入った。
ブラインド全開にして机の前に座る。
向かいの窓では既に美琴がスタンバイしており、にこやかに手を振ってくる。
窓を開ければ会話もできる距離だろうけれど、四方数メートル範囲に筒抜けの会話もしゃれにならない。
手持ち無沙汰でいるのも無意味と、悠は勉強道具を取り出す。
まるっきりの剣道バカというわけでもない彼は、明日の予習でもすべきと、数学の教科書を開く。
向こうも始めたらしく、ちらりと視線を送ると、参考書片手に首を捻っていた。
しばらくして、美琴が動く。彼女が部屋を出たのを確認してから悠も道路のほうを見る。
菅原牧夫がいた。
今日は比較的カジュアルな恰好で、これから勉強という雰囲気ではなかった。
牧夫は彼女の部屋に上がったと同時に窓際に立った。
きっとカーテンを閉めるつもりなのだろう。
しかし、それを美琴が制し、何かやり取りをしているのが見えた。
それもやがて収まり、授業が始まっていた。
彼は彼女より少し離れた場所に立ち、英語かなにかの教科書を手にしていた。
悠はその様子を見たあと、笑いがこらえられなくなり、手近にあった漫画を開いてカモフラージュする。
その後も牧夫は美琴の周りをうろうろするだけで、特別な行動は一切しなかった。
帰り際も美琴は玄関先での見送りのみで、路上での抱擁はお預け。とぼとぼと帰路につく牧夫に、悠はようやく一矢報いたと感じた。
**――**
開校記念日の朝、悠は相模大野の駅の前にいた。
十時を回った頃のせいか、駅に人はまばらで、遠くからかけてくる和子を探すのも苦労しなかった。
「お待たせしました、悠先輩……」
「一体どうしたの? その恰好」
デニムにパーカー、ついでに大きめの眼鏡、目深に被った帽子と怪しさ全開の和子に、悠は面食らう。
「私は先輩と違って過去があります。だから、万が一を考えて、変装をしてるんです」
「なるほど……」
言われてみればそのとおりと、悠は頷く。
「それじゃ、行きましょうか……」
「ああ」
並んで歩く二人だが、手を繋ぐわけではない。デートというには、あまりにも酷な過去が女の子の肩にかかっているのだから……。