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過ぎ行く日々、色褪せない想い
【学園物 官能小説】

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過ぎ行く日々、色褪せない想い-20

「今日から先輩がすることは、まず一つ。部活を早く上がって、美琴さんに声を掛けることです」
「え? そんなことして意味あるのかい?」
「お向かいには先輩がいます。そして、今さっきお互い話をしました。そんな状況でセックスをする気になれると思いますか?」
「セックスって……、童貞の俺に聞くなよ……」
「それはすみません。けど、少なからず好意を抱いている先輩が脳裏にちらつけば、罪悪感が生まれますよ」
「背徳感で逆に燃えるとか?」
「かもしれません。でも、覗き見されてるかも、とか、感づかれてるかもと思いながらするような人には思えません」
「ああ」
「いいですか? 今日からは部活熱心なふりを辞めて、定時に帰り、美琴先輩を待ち伏せして一言二言会話して、カーテンのこととかそういうのを牽制するんです。とにかく二人を暗い密室に一緒にさせないことです」
「そんなに上手くいくかな……」
「これは予防策です」
「それに、もしそういうことしなかったとして、どうなるんだ? 美琴はアイツを好きなんだし」
「牧夫が美琴さんを好きではないからこそ有効なんです。アイツは性欲の塊だから、もしセックスができないなら、強引な手に出たりしますよ」
 先ほどからセックスを連呼する和子に気持ちを落す悠。彼女の言うことは、真実を含む。既に美琴は女になっており、その相手も……。
 それでも目を背けたい真実がある。「見ない」と選択できるはずなのに、それでも、もし美琴が不幸になるかもしれないというのなら、自分はそれを……。
「来週の開校記念日、暇ですか?」
「え? ああ……」
「それじゃあ行きましょう」
「どこに?」
「大城大学です」
「なんで?」
「特に意味はありません。ただ、今は少しでも情報を手にする必要があります。私達はあがかないといけないんです」
「なるほど……」
 終始後輩に言われるがままの悠は和子に感心しながら、何も具体策を出せない自分を情けないと感じていた。はがゆいとはこういう気持ちなのだろうか? そんな自嘲気味で……。
「じゃあ、記念日は相模大野の前で九時に待ち合わせです。今日はとにかく先輩はまっすぐ帰るんですよ?」
 まるで教育ママのように言い切る和子に圧されつつ、これも美琴を守るためと頷く。
 作戦会議も一旦休憩、他の部員は既に道場で練習を始めているだろう。
 悠は先に部室を出る。
「先輩、遅かったですけど、どうかしたんですか?」
 心配そうに言うかれだが、その表情は険しい。睨む視線には明らかに敵意があり、それ以上に部室の中を気にしているようで、そわそわと視線を向かわせる。
「いや、別に……。んじゃ、お前も練習遅れるなよ」
 悠はすれ違いざま、彼の肩をぽんと叩いて部室を後にする。
 背後では何か言いたげな弘樹が戸惑っていたが、何かを振り切るように彼の後に続いた。

**――**

 五時を回る頃、悠は帰り支度をしていた。
 最近の自主練習も厭きたのかと部長は特に何も言わないが、鍵を返しに行くのが面倒とこぼしなら職員室へと行く。
 今から急げば美琴の帰宅時間に間に合う。メールや電話ではなく、直接面と向かって会話したほうがいいだろう。
 そう考えた彼は、駐輪場から自転車にまたがると、颯爽と校門を後にした。

 吹っ切れたといえば嘘になる。
 二人がキスするところを見たのだし。
 まともに話すことができるのだろうか?
 少し前までなら平気だった……だろうか?
 いや、違う。
 メールでのやり取りが増えたのに、電話はできなかった。
 彼女を避けていた。
 顔を合わせない、現実を薄くさせたメールでの繋がりにかまけて……。

 ――美琴……!

 つま先でペダルを踏む。身体を強張らせて姿勢は低く、風の抵抗を受けないように。
 まるで競輪選手のようなスタイルは、通学用の自転車には似つかわしくない。
 それでも彼は漕ぎ続け、六時を回る頃には家が見えてきた。


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