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過ぎ行く日々、色褪せない想い
【学園物 官能小説】

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過ぎ行く日々、色褪せない想い-13

**――**

 道場を出る頃は、既に日も暮れている。
 秋を飛ばして冬を実感させる風に、悠は身震いをする。
 鍵を職員室に持ち帰るのは、本来部長の仕事。けれど、最近はもっぱら悠がしていた。
 最後まで道場に残り、型稽古を三十分、柔軟体操十五分、他に黙想十五分を加えての一時間オーバーの自主連をしているのだ。
 次の試合にかかる期待感と、来年の推薦のため。
 周囲にはそう伝えていたが、本当は時間を潰すため。
 今から帰るのなら、時間的に八時を回る。
 煩悩を抑えるには、それ以外に方法を知らない悠の苦肉の策であった。

 ――さてと、帰ろうかな……。
 自転車置き場からすい〜っと走り出す彼。そこへ突然黒い影。
「うわっと!」
 慌ててブレーキを踏んで後輪を滑らせる。
「あぶないじゃないか! どこに目をつけてるんだ!」
「パッチリおめ目が二つもあります」
 聞き覚えのある声は、暗がりの中での小さなシルエットと相成って正体がわかる。
「和子ちゃんか。いったいなんのよう? 弘樹は?」
「えと、弘樹君とはさっき別れて……」
「へぇ。それで?」
「あの、もしよかったら一緒に帰りませんか?」
「そういうのは弘樹に悪いだろ? だめだよ」
 浮気というほどでもないにせよ、自分の好きな子が別の男と歩くなど、許せるはずがない。特に今の悠には痛いほどわかることである。
「お願いします。先輩、今日だけでいいんです。その、相談したいことがあって……」
「相談? 弘樹じゃダメなの?」
「その、弘樹君だと都合が悪いんです……」
 いつに無く神妙な態度の和子はやや不気味。それでも恋人である弘樹にすら話せないこととなると、悠としてもそう無碍に断ることはできそうに無い。
「わかったよ。少しだけな」
 十月の暮れ、夜も更けているこの頃に女子を一人帰路に着かせるというのも気が引けた悠は、彼女に荷台に乗るように向ける。
「すみません……」
 いつもと違うしおらしい態度に、悠は首を傾げてしまう。
「じゃ、いくよ」
 悠は、ゆっくりと自転車を漕いだ。


「和子ちゃん、家はどっちのほう?」
「先輩と同じほうです。というか、中学一緒でした」
「そうだっけ? でも、剣道部は……」
 中学時代を思い出すと、確か女子剣道部は部員が少ないせいで男子と合同であった。それは高校に入っても同じだが、同じ中学なのに思い出が無い。
「はい、剣道は今年から始めました」
「へぇ、そりゃまたなんで?」
 記憶違いではないとほっとする。その後は世間話のつもりで話を振る。
「えと、護身ですかね?」
「そうなんだ。でも、今は弘樹が守ってくれるんじゃないの?」
「ですけど、ちょっと言いにくいことがありまして……」
「へぇ……」
 それがおそらく相談なのだろう。人生経験といえるものが無い悠に、上手く応えることができるかはわからないが、それでも先輩という面子がある。
「それはどんなこと?」
「先輩の家、どこですか?」
「え? あ、あぁ、もうすぐ着くけど……」
 無駄話をする暇もなく、彼の家が見えてくる。向かいの家、二階の部屋はいつものようにうす桃色のカーテンが閉められ、白熱灯の明かりが漏れていた。
 ブレーキがきゅっと音を立てる。和子は荷台から下りると、視線を上に上げていた。


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