過ぎ行く日々、色褪せない想い-11
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帰り道、悠は携帯を耳に当てて、再生ボタンを押す。
十八秒後にもう一度、もう一度、もう一度……。
ノイズ交じりの声。聞きなれたはずの美琴のそれは、上ずり、高く、色合いを彼の知らないものとしていた……。
友達と居ただけかもしれない。
彼女がそう言っていたのなら、それを信じてあげてもよい。
所詮は他人同士、いつかは別れの来る関係なのだし、今がその時期。
来年はお互い受験がある。
彼女は地元の大城大学。自分は、剣道の強い大学を探せばいい。県外で。
学力に自信が無いが、今日のような成績を残すことができれば、きっとどこかにもぐりこめる。だから、問題ない……。
自然と溢れるモノを、悠は上を向いてしのいだ。
「あら、ハルちゃん……、お帰り……。今日の試合どうだった?」
玄関をくぐろうとしたところで呼び止められる。相手は向かいの江成さん。美琴の母、恵子だった。
「え? あ……、はい! 今日はすごいっすよ!」
慌ててリュックから盾を取り出す悠。厳かな想定のそれは、参加賞でないことぐらい一目でわかる。
「すごいわね、ハルちゃん。優勝? したの?」
「ええ。まぐれですけどね……」
まぐれで優勝できるはずもないが、謙遜の言葉を他に知らない彼は、それしか言えず、頭を掻いていた。
「そういえば、美琴は? ハルちゃんの応援に行くって早くに出たんだけど、一緒じゃないわよね……」
「え!?」
突然大声を出す悠に恵子も一緒になって驚く。
「どうしたの? そんな大きな声だして……」
「いえ、あ、ああ、美琴なら友達と用があるからって、だから、別になって、それで……」
「ふうん。そう……」
どこか納得いかないといった恵子だが、話題を膨らませまいとする悠は一礼すると、門をくぐる。
玄関を開けて、階段を駆け上がる。
汗で湿ったシャツも気にせず、彼はベッドに飛び込むと、声を上げずに泣いていた。
おそらく二人の予想通り。
声の意味も理解できる。
彼女がどこに居たのかはわからない。
けれど、誰と居たかはわかる。
それは辛いことだが、耐えるべきこと。
しかし、辛いのは別にもう一つ。
彼女が嘘をついたこと。
自分にではなく、自分を利用して嘘をついたこと。
それを知ってしまったことを呪う。
首を突っ込んできた弘樹? 和子? 真実への道筋を立てた恵子を? それとも元凶であるあの男?
違う。
憎悪の向こう側に居るのは、美琴。
涙が溢れる。
とめどなく。
それは枕を濡らす。
叫べば紛れるかもしれない。
けれど、悟られるのが怖い。
自分勝手な失恋は、罅割れた気持ちの隙間にしまっておきたい。
誰にも言わず、いつか笑える日が来るまで……。