「熟女と内気な高校生」-2
学校が休みのある土曜日、健一がクラスの友達を家に連れてきた。以前からガールフレンドを連れてくることはよくあったのだが、珍しくこの日は男の友達だった。
「へぇ、珍しいじゃない、あんたが男の友達連れてくるなんて。」
「同じクラスの田中っていうんだ。俺と違ってむちゃくちゃ頭がいいんだ。」
健一がそう紹介すると、田中はペコリと頭を下げて丁寧に挨拶をした。たくましく日焼けしている健一と違って、青白く痩せてメガネをかけている。健一の言うように頭のよさそうな子だ。
淳子がジュースと菓子を出すと、又丁寧に礼を言った。健一とは全く正反対のタイプなので意外な取り合わせに見える。
淳子の会社も土曜日は休みなので、簡単に部屋の掃除を済ませ、昼は田中の分も合わせて昼食を作った。田中は、本当にうまそうに淳子の作った食事をペロッとたいらげ、又丁寧に礼を言う。
食事が済むと又健一と二人で部屋に入り、何を話しているのか、時折り笑い声が聞こえてきた。
夕方近く、夕食の買い物から帰ってくると、丁度田中が帰るところだった。
「どうも長々とお邪魔しました。」
田中は、礼儀は正しいのだがどうも照れているのか、何故か淳子と目を合わそうとしない。まったく違う方向に目線を向けて、顔だけを淳子に向けて頭を下げる。
(変な子ね、恥ずかしいのかしら)
淳子は深く考えることもなく、「またいらしてね」と笑顔で返した。
「そうだ、晩飯も食ってけよ。どうせ親父さん遅いんだろ?いいだろ、母さん。」
スニーカーに足を入れた田中を引き留めるようにして健一が言った。
「ええいいわよ、今日はグラタンとサラダなんだけれど、よかったら食べていって。」
淳子がそう言うと、初めて田中は視線を合わせ、目を輝かせた。
「本当にいいんですか?」
「本当よ、いつも二人だけだから、一人でも多いほうが作り甲斐があるわ。」
淳子が笑って答えると、「ありがとうございます、ごちそうになります」と大げさに頭を下げた。
田中はまるで何日も食事をしていなかったかのように「おいしい おいしい」を連発しながら夢中で食べていた。
帰り際には又丁寧に何度も礼を言って帰っていった。
「あいつさぁ、親父さんと二人暮らしなんだ。親父さんはほとんど仕事で家にいないから、いつもコンビニ弁当ばっかで、お袋の味に飢えてるんだよ。」
田中が帰った後、淳子の入れたコーヒーをすすりながら健一が言った。
「へぇ、それは大変ね。うちとは逆の片親なんだ。あんたは幸せね、たっぷりごはんが食べられて。それよりずいぶん楽しそうだったけど、何を話してたの?」
「いろいろとね。あいつ本当に頭よくてさ、俺の知らない事なんでも知ってるんだ。難しい科学の事とか宇宙の事とかさ。今までサッカー仲間としか付き合いがなかったから、正直言ってああいうガリ勉タイプは好きじゃなかったんだけど、考えが変わったよ。それよりさぁ母さん、パソコン買ってくれない?」
「パソコン?」
淳子はコーヒーカップを口元に持ったまま驚いたような顔をした。
「あんな高いもの買えるわけないでしょう。第一あんたには使いこなせないわよ、デジタル音痴のくせに。」
「大丈夫だよ、田中に教えてもらうから。パソコンがありゃなんでも出来るんだぜ、あいつはすごいよ、あんな難しいパソコンを簡単に操っちゃうんだから。」
健一は興奮したように、田中がいかに頭がいいか、とか、パソコンの面白さとかを延々と話した。
「はいはいわかったからもう寝なさい、明日も早いんでしょう。」
淳子は健一の背中をポンポンと叩いて部屋へ追いやった。明日はサッカーの試合があるのだ。もちろん健一は一年生なので試合には出ないが、応援のため6時には家を出る。当然淳子はそれより早く起きなければならない。
次の朝はしっかり寝坊して、健一に散々文句を言われながら慌てて弁当を作って追い出した。
一息ついて時計を見ると、まだ7時すぎ。日曜だというのにずいぶん早起きしたものだ。仕方なしに、掃除や洗濯で時間を潰すことにした。