夏の日の帰り道-6
*――*
帰る頃にはすっかり日も沈んでた。
西日はまぶしいけど、我が愛しい家はその方向にあるから背を向けられない。
あんまり知らない街なみのせいか、私達は延々と線路沿いの寂しい場所を歩き、たまに走り去る電車に羨望のまなざしを向ける。
なんだか映画のワンシーンみたいだ。
当然ヒロインで主役は私ね。
本当なら今は電車に揺られているはずなんだけど、誰かさんが見栄をはったせいで帰りの電車賃が途中までになったせいだ。
「まったく、そんなんじゃ彼女できないし、できてもふられちゃうよ」
「たくっ、誰のせいだよ」
「はい、お馬鹿な良太君のせいです!」
計画性の無い散財をしてくれた良太にかつを入れる。
まぁ、私としても財布に余裕を持たせてなかったわけだし、ワンピース買わせてあげた負い目もある。
いや、でもこれは罰だし、しょうがない? んでも……。
私が頭を悩ませていると、すぅっと風が頬を撫でる。
日差しはまだきついのに、午後の風は穏やかで困る。
なんとなくそこにある、便利というには違うけど、あると良いもの。
普段なら気付かないんだけれど、こういうときだけ嬉しいもの。
「ん? どしたの?」
「いや、別に」
もうあと一駅歩いたら、定期が使える駅が見える。
その頃には多分日も沈んでいるかもしれない。
そうなる前に帰らないと、なんかいけない気がする。
私は不良じゃないし、そういう子でもないし……。
というか、表紙も真似られない子だもの。
まだ早い。
だから沈まないで欲しいな。
夏の日の太陽。
「……喉、渇かない?」
「え? あ、うん」
自販機の明かりに走っていく良太をとぼとぼと追いかける。
なんか黙ってたけど、不機嫌だと思われたかも。
まぁいいけど。
うん、別にいい。
ていうか、ジュース代あるなら切符代あるんじゃないの?
まったく、どうしてこう、変なお人よしなんだか……。
「ほいっと、どうぞ……」
けど、良太がもってきたのはスポーツ飲料一本だけ。
「ちょっとあんたの分は?」
「ん? それ」
「これは私の」
「いや、変わりばんこに飲もうと思って」
「嫌よ。そんな不潔なこと」
「不潔って顔かよ」
「あんたはね」
「はいはい」
日差しを背に受けた彼の顔は見えない。
どんな顔してるのか気になるのが癪で、私はスポーツドリンクをがぶのみしてやった!
えぇ、それこそ五百ミリが無くなるぐらいに……ってそれは無理、っていうか、なんか気管に入って……、
「げふ、げっふ、えふ……えふえふ……」
すっごい苦しいっての……。
もう、なんでこんなことに……。
「大丈夫か? 一気飲みなんてするから……」
「だって、けほ、アンタが、いきなり、そんな、回し飲みみたいなこと、したがるから……」
「子供の頃はよくしたろ?」
「もう子供じゃありません!」
「へぇ、そいつはしらなんだ」
「はい、そんなにのみたきゃどうぞ! 私と間接キッスのペットボトルでもれろれろちゅっちゅしたら!」
なんか私ばっかり空回りするのが癪になってしまい、私は良太にペットボトルをつっかえした。