HOLIDAY-後編--1
「ねえ、圭さんこれ、美味しいよ」
彼女はイタメシが大好きで。
ソースはクリーム系を注文することが多い。
食前酒で酔ったってことはないだろうけど、少し陽気になる。
「美佳さん、優しいね」
ぽつんとそう言って窓の外を見つめている。
「圭さんととってもよく似てる」
「え。似てないでしょう?僕も姉貴も母親似ではないし」
「姿形じゃなくてね。何気なく気を使ってくれて、一緒にいると安心しちゃうの。だから、圭さんと美佳さんが姉弟だってきいたときは、『あ、そっか。なるほど』って思ったの」
あの頃。彼女は僕と姉貴を恋人同士だと思っていて。
彼女にはオツキアイしているヤツがいて。
僕らが姉弟と知っても、『なるほど』的な感慨しかなかった訳だ。
ダメもとで告白してフラれて。こっちもそれは想定内。
粘り勝ち。というか、彼女が自ら僕のところに舞い降りてきたというか。(これは想定外)
「そうですかねえ」
僕はクセっ毛の頭を掻いた。
「言われない?」
「言われないな。共通の知り合いっていないし。…あ」
僕は思い出して眉を寄せた。
『圭ちゃんも美佳ちゃんも優しいよね。みんなにいじめられてるのに。ボク、二人とも大好きだよ』
姉貴と三人、子供の頃に連んでいたヤツが言っていた言葉を思い出す。
そいつが今や僕の義兄になっている。
「あるんだあ」
美里さんがくすくす笑った。
「似てると言ったわけじゃないけどね。ちょっとマヌケ面を思い出した」
そいつがちょっと美里さんに被って僕の方が笑ってしまう。
「ふうん。」
彼女が小首を傾げた時、食後のデザートとコーヒーが運ばれてきて。
僕はシャーベットの入った器を彼女に差し出した。
彼女が上目遣いで僕をみて嬉しそうに笑った。
セットで出てくるデザートは大抵彼女が二人前食う。
「圭さん、甘いの嫌いなわけじゃないよね?家では食べてるし。セーブしてる?」
「いや、そういうわけじゃないけど。気分?」
そう答えてコーヒーを口にした。
こんな小さな器一つで嬉しそうにする美里さんが見られるから。とは言えなかった。
「レモンだよ?甘たるくないよ?美味しいのに」
そういいつつ、二皿のジャーベットをたいらげて、コーヒーを口にする彼女はとても幸せそうで。
「…僕のデザートはもう少し後だから」
横を向いてつぶやいて、窓の外を眺めながらコーヒーを飲んだ。
「…圭さん、えっち」
彼女が顔を近づけて小声で言った。きこえていたらしい。
口を尖らせてるが、目が笑ってる。
「そだよ。知らなかった?」
「あはは。負け負け。負けました」
彼女の怒ったフリは失敗。笑って敗北宣言。
屈託なく笑う彼女が僕を幸せにしてくれる。それを美里さんは気づいているだろうか?