長い夜 (五)-5
「うつしてやる。」
「いやよ、離して」
「うつして、今度は俺が遼子さんの体を拭く・・・」
遼子は声を上げて笑って
「お・こ・と・わ・り」と言ったあと
「大事にしてね、ぐっすり眠るのよ」と言いながら、真人の手を解き
ドアに向かった。
ドアノブに手をかけようとした時、真人が呼んだ。
「遼子さん・・・・」
「なぁに?」首だけで振り返る。
「元気になったら、キスさせて」
遼子はまた声をたてて笑ってから、
「いいわよ。 おやすみなさい」と言って部屋を出た。
鍵をかけてもとの位置に戻し、帰路に向かった。
歩いて数分でメールが鳴った。真人からだ。
「今日はありがとう。来てくれて嬉しかった。うがいと手洗いを忘れないでね。
キスの約束も・・・」
遼子はニヤリと笑みを浮かべながら、携帯を閉じた。
帰ってすぐに手洗い、うがいをもちろん忘れなかった。
この大事な時に、風邪なんて移されてはたまらない。
シャワーを浴びて、ビールを一缶飲んだ。
ベッドに横になると、真人のことを思い出していた。
もう、寝たかな。
キレイな体をしていたな・・・。
私に絵が描けるなら、まさしく真人をモデルにして
あの均整の取れた肉体の美を残したい。と真剣に思った。
あの体に抱かれたら・・・・というよりも
芸術的な意味で、印象深い真人の体を思い出していた。