第12話-1
夏休みに入っても早貴は相変わらず忙しいままだった。
部活の練習は日曜日以外ほぼ毎日行われ、帰ってきたら夕飯作って風呂に入り、そのまま力尽きて眠る毎日だった。
「お父さん・・・」
しかし今夜は起きている。
土曜日だというのもあるが、何より今日は・・・特別な日でもあるからな。
布団を敷いて、その上に胡坐をかいている俺の膝にお尻を下ろしている早貴。
パジャマではなく部屋着のままで、俺に体を預けている。
見飽きているはずの水色のTシャツが、なんだか今日は新鮮に見えてくる。
「ねえねえ、お父さん、なんか、ちょっとドキドキしちゃってるの。変なの、緊張してるのかな、あははは」
早貴は頬を紅揚させ早口気味で喋り、小刻みに体が震えていた。
必死に笑顔を見せようてしているのが、引きつっている唇の端の痙攣で分かった。
明らかにこれからの事を意識しているというのが伝わってくる。
帰ってからあまり口数も多くなかったのでもしやと思ったが、その通りだったみたいだ。
昔から物事を意識しすぎてしまうところがあるからな。俺の悪いところが遺伝したに違いない。
「もう、最後なんだね。これで明日からは何もしないんだね・・・」
背中を密着させたまま、俺の肩に乗せた顔を寂しそうに見上げるその顔に思わず動揺しそうになった。
無理している笑顔が一層物憂げに引きつるのは、見ていて幸かった。
「そうだな・・・早貴は俺の娘、俺は早貴のお父さんに戻るんだよ」
いかん、俺まで寂しいなどと思っては、本当にここから抜け出せなくなってしまう。
「ごめん、私から次で終わりにしたいって言ったのに。もう、どこまでワガママなんだろ」
「安心しろ、早貴。俺もずっとしたい。でも長くやると惰性になって快感が薄くなるからな、惜しいくらいが丁度いいんだ」
俺の冗談に笑ってくれた。まだまだ表情は堅いが、少しでも緊張が解れてくれれば嬉しいな。
どんな事にも決断しなくちゃいけない時はあるんだな。
それなりに長く生きてきて、とっくに分かっているのだが、改めて感じた。
これは家族の為の決断だ。取り戻すんだ、もう一度。家族の絆ってやつを。
「うえぇ、もうやるの?いいけど・・・んっ、ふぁ」
まだ背中から抱き締めたままで早貴の唇に、自分の唇を重ねた。
くすぐったそうに動かす早貴の唇が柔らかくて、思わず舌を入れそうになったが我慢した。
焦らなくていいんだ、今夜で最後だからじっくり・・・
それにしても柔らかい唇だな。もう少し噛んでもいいか、早貴。