小太郎、しゃべる-2
「いつものでいいか?」
「俺に意地悪したからビーフジャーキーも付けろ。そしたら水に流してやる」
偉そうにしてたくせに結局自分の力では開けられなかった。
そんな小太郎だが、皿にあけた缶詰めの中身を忙しなく頬張る姿を見てると、自然に口元が綻んでしまうのだった。
「普段食事の時間は朝と夜しかないからな。休みの時くらいは三食しっかり食べたいものだ」
「仕方ないだろ。仕事があるんだから」
「今度から俺の手が届く場所に置いといてくれ。我慢するのはつらいのだ」
「そりゃいいが、でも缶詰めにしろ袋にしろ、中身を開けるまでは出来ないだろ?」
「出来る。さっきのドアは少々うまくいかなかっただけだ」
少々ねえ、と眉を上げたら本当だぞ、とむきになってきた。
ふふ、可愛い奴だ。喋り方はあまり可愛くないがな。
「ご馳走様。まあまあだな」
ビーフジャーキーをくちゃくちゃ齧りながらほざく小太郎。
ぺろりと平らげといてさらにそんなものを・・・よく食う奴だ。
「腹拵えに遊びに行こうかと思ったが、このうだる様な暑さでは熱にやられてしまう」
「お前は簡単には倒れないだろ。太い神経してやがるからな。そのうち、振り回されてる俺の方が倒れるよ」
痛っ。こいつ、叩きやがった。
口答えするなってか、ご主人様に向かって。
「だからお喋りを楽しもう。陸奥彦もただ鼾をかいて時間を潰すよりはいいだろう?」
「やだね。時間を潰させてもらうよ」
クーラーの効いた部屋の中でベッドに寝転がり、頭から覆う様に毛布を被った。
暑い毛布を寒い部屋で被って眠る。今の俺に出来るせめてもの贅沢だ。
「この不届き者めが。可愛いペットが喋ってやろうというんだぞ、嬉しくはないのか」
「嬉しかったらこうしてねえだろ。起こしたら夕飯抜きな」
しつこく起こそうとするのかと思っていたが、小太郎は静かになった。
へえ、ようやくお前もご主人様を敬える様になったか。よしよし、たまには褒めてやろう。
様子を伺おうと毛布から頭を出したら、目の前に小太郎が座っていた。
いや、片足を上げて・・・この体勢はまさか?!やめろ!やめるんだ小太郎!!
「話してくれなきゃマーキングするぞ。俺は手段を厭わない」
「わ!わ!やめろ!なんで痙攣してんだ、こら!分かったからやめろ!」
仕方なく話してやろうとしたら、許可なくまた窓をあけやがった。
クーラー効かないだろうと言ってもまったく聞き入れない。
ひんやりした心地よい部屋に、生暖かい薄気味悪い空気がのしかかってくる。