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小太郎
【家族 その他小説】

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小太郎、しゃべる-1

頬をつねってみたが、痛い。夢じゃないのか?
そうだ、多分聞き間違えたんだ。空耳といった方が正しいかな。

「聞こえなかったのか、陸奥彦(むつひこ)。さっさと飯を出せと言ってるんだ」

まただ。また、こいつの口から人間の声が聞こえる。無駄に渋い声しやがって。
少なくとも昨日の夜は普通に犬らしく鳴いていたはずなのに、まるでどこぞのCMみたいに人の言葉を話している。

「お前、小太郎か?」
「お前が名付けたんだろ。まあ、悪くはない名前だな」
「なんで喋ってるんだ、昨日まで普通の犬だったろ」
「今も犬だ。今日は喋りたい気分なんだよ」

へえ・・・犬というのは、その気になれば人間と会話が出来る様になるのか。
面白い夢だな。飼い犬と会話するというのも、悪くはない。

「どうせ会社は休みだし、訪ねてくる客もいないだろう。早く飯を出せ」
「馬鹿言うな。たまに来てるだろ、それに俺は迎えるより遊びに行く方が好きだろうが。一緒にいて分からないのか?」
「知らん。分かるはずもあるまい。お前だって俺が足で一回に耳を掻く回数が分かるか?それと同じだ」

言いたい事がさっぱり分からないが、意外とお互いの事は把握してない、という訳か。
それにしても、変わった犬だ。
食い物をやってる時からどことなく変な雰囲気だとは思ってた。
俺の家を探してあてて勝手に転がり込んだり、
星空を見たいからという理由で外に出て、挙げ句勝手に居眠りしてしまったり、挙げ句には喋りだしたか。

「おい、何度も言わせるな。腹が減って仕方ないぞ、早く出せ。出すんだ陸奥彦!」
「ご主人様を名前で呼ぶ奴には何もあげません」
「何!ええい、生意気な奴だ。もういい!自分でやる」

いつも缶詰めがしまってある冷蔵庫を開けようとしている。
だが、犬の手に親切ではない構造で、開けられずに苦戦していた。

「おのれ、陸奥彦なんぞに開けられるのになぜ俺では出来ない、くそっ!くそ、おのれぇ!」
「手伝ってやろうか」
「うるさい!黙れ!お前の手など借りない!」

さあ、いつまで意地を張っていられるかな。
残念だがそのドアを開けられるか開けられないか、僅かな差が人間と犬を分かつ境界線なのだ。

「ちぃい、小癪な!ええい開け、開くのだ!人間の作った物など容易く扱えるのに!」

自分で窓を開ける事は出来ても、冷蔵庫となるとそうはいかなかった。
小太郎はなおも必死に前足でドアをガリガリ引っ掻き続ける。
だが、表面を引っ掻いているだけでは開かないぞ。気合いではどうにもならない。
一層引っ掻く速度が上がったかと思ったら、いきなり動きを止めてしまった。

「・・・陸奥彦〜、頼む。不本意だがお前の力を借りたい。お願いだ〜〜」
「情けないな、もう終わりか。俺の力なんて必要無いんじゃなかったのか?」
「意地悪を言うんじゃない。頼む、腹が減って力が出んのだ。頼む〜〜」

ぺたんと顎を地面に付けて、降参のポーズを取る小太郎。
ぱたぱた振っている尻尾が情けなく見えて、でも可愛かった。
しょうがない奴だ、お前は俺がいなきゃ食事も出来ないんだな。


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