HOLIDAY-前編--3
「さ。シャワー浴びて着替えて」
「圭さんは?」
「僕はとりあえず着替えて姉貴の相手してるから」
閉めた戸がガタガタと鳴る。
「あっち! あー」
悠太がこっちに来たがっているらしい。困ったやつだな。
僕は苦笑した。
「あんまり猶予はないみたいだ。大丈夫だから、少しゆっくりしといで」
彼女の額にキスして、背中をぽんと叩いた。
彼女は急いで着替えを持つと部屋からでた。
僕も急いで脱ぎ散らかしているジャージを着て、布団をしまい、戸を開けた。
「あー」
部屋に入ると悠太はきょろきょろ辺りを見回す。
美里さんを探しているらしい。
前に遊びに来ていて、悠太のお気に入りになっている。甘やかしてくれるから。
ひょいと悠太を抱き上げて部屋をゆっくりとうろつく。
「いないんだなー」
「いない、ねえ」
ひとまず納得してもらって、下ろした。
「まったく、びっくりしたわよ」
「ビックリはこっちだよ」
「一応、挨拶したのよ。ピンポン鳴らせば良かったわ。鍵かかってないし、話し声が聞こえたから。まさか、最中とは思わなかったし」
夕べ僕が仕事から帰った時が最後か。
美里さんはずっと部屋にいたし。
「鍵。忘れてたんだ…。僕、だよなあ。最後に出入りしたの」
「そ。あんたが悪い」
「あんた、わゆ」
悠太が胡座をかいた脚の上に座る。
「なにしに来たんだよ」
「ふらっとよっただけだったんだけど。あ。キッチンのテーブルにケーキ置いてる」
「ライトなおにいさんは?店?」
「うん」
あ、そ。
「こんにちは…」
着替えた美里さんが顔を出す。
濡れた髪を髪留めでとめてる。でも、あんまりゆっくりはできなかったらしい。まあ、そうかもな。
「ごめん。悪かったわね」
「いえ」
気まずいよなあ。顔が赤いのは風呂上がりのせいだけとは思えず。
「あー」
悠太が美里さんの足許へ走る。
美里さんが屈み込んで笑う。
「悠ちゃん、こんにちは」
「こんにちは、は?」
「こん… ちゃあ!」
姉貴に促されて、悠太もご挨拶。
美里さんが頭を撫でると、ニカっと笑い走りだして、脚がもつれてスッ転げた。
起きあがって、きょろきょろとどこへ行くか迷ったようだが、結局姉貴の膝に座った。