第9.5話-1
果てた直後、早貴はゆっくり瞼を閉じた。
握っていた手を離し汗が滲む体を拭いてやった。
静かに呼吸する度に、控え目な乳房が膨らんではしぼむのを繰り返している。
いつまでもこんな無防備な姿をさせるのもな、と思いタンスからパジャマを出して着せてやった。
(特に変わった様子は無いみたいだが・・・)
寝息を立てる早貴の顔をもう一度見てみたが、いつもの寝顔と変わらない。
しかし、何故かさっきから釈然としないというか、胸にもやもやしたものが引っ掛かっている。
行為の最中早貴の様子がいつもと違う気がした。
ああいう不自然な笑い方をする時は、決まって何かを心の中に抱えている時だ。
子供の頃からいつも明るくて、特に家族の前では悩んだ顔を見せた事が無かった。
しかし早貴だって一人の人間だ。悩まないなんて有り得ない。
いつも自分の意見を主張する芯の強い娘だと思っていたが、笑顔に陰が見える時もあった。
俺はわりと他人の変化には鈍感だと自分では思っている。それはそうと、血の繋がりに関しては敏感だと思う。
「何を抱えてるんだ。自分一人で」
聞いたところで意識がこっちに無い早貴が答えるはずもない。
そうだと分かっていても、聞きたくなる心境だったのだ。
思い出してみるんだ、早貴が悩むのは主にどういう時期だったのか、もう一度考えよう。
確か俺が最初に気になったのは中学生になってから、だった。
その次は部活を始めてから、そこからはしばらく無くて、次は・・・受験の学年になった時。
主に周りの環境が変わった時、か?
だったら今も悩んでいても不自然じゃないはずだ。
特に高校生になってからは今までと環境が¨色々¨違う訳だしな・・・
同じ場所に暮らす様になってから距離が近付いたのも、何か関係あるのかもしれない。
「・・・?!」
寝顔をもう一度見てみたら、閉じられた睫毛が濡れているのに気付いた。
さっき見た時は何もない様に見えたのに、やはり濡れていた。
さっき拭いた汗と同じく目を濡らす涙も拭き取ってやった。
(早貴・・・心配するな。お父さんがついてるんだからな)
父の日に観た映画の断片が記憶の片隅から掘り起こされる。
まだ早貴は守ってやらなくちゃならないんだ。
俺だって父親の端くれなんだ、それくらい許してくれるよな。なぁ、早貴。
〜続く〜