第9話-1
笑顔で見送る先生に頭を下げて相談室のドアを閉じた。
背筋を伸ばし、部屋の中では出来なかった深呼吸をする。
「終わった?」
窓を眺めてたえりかちゃんが私にひらひらと手を振ってきたので、同じく手を振り返す。
もうえりかちゃんは進路相談が終わったから、私を待っていたのだ。
「めんどいねぇ進路って。早貴ちゃんはどうすんの」
「就職する。うちお父さんしかいないし、少しでも助けてあげたいから」
「健気な娘を持って、早貴ちゃんのお父さんは幸せだねぇ」
えりかちゃんはどこか他人事みたいな言い方をした。
言い方は悪いけれど、あまり普段から将来を考えてる様には見えない。
「えりかちゃんはどうするつもりなの」
「社長になる」
「・・・え」
「それも考えたけど、取り敢えず進学かな。服とか好きだから専門行こうと思って」
最初の答えはともかく、次の発言には思わず頷いてしまった。結構お洒落だから合ってると思う。
まだ決まってなくても、どうせなら自分の好きなものを将来の目標にしてもいいんじゃないかな。
なんて、友達なのに偉そうに思ってしまった。
「まともな進路相談にならなかったけどね。服が好きなのは結構だけど、ちゃんと制服着なさいってさ・・・」
「そうだね、あの先生ちょっと真面目すぎる」
まるで・・・お父さんみたい。
こないだ話してて髪染めてみようかなと言っただけで、私が不良になっちゃったってへそ曲げちゃった。
だったらえりかちゃんは染めてるけどいいのって聞いたら
(あの子は似合うからいいんだ。早貴は黒髪じゃなくちゃ駄目だ、分かったな)
分かんないと反論したら分からなきゃ駄目だ、分かったなと繰り返したので、その日は話すのをやめたのを覚えてる。
普段はあまり私を怒ったりしないから驚いた。
・・・髪を染めるのはいけないのに、もっといけない行為をするのはいいのかな。
ちょっとやり過ぎてるのに、お父さんは本気で拒絶しようとしてない気がする。
お父さんの物事の判断の基準はよく分からない。
いったい何が問題なくて、何が問題なのか・・・一緒に暮らす距離が近くなっても、本当に深いところは分からないまま。
私がお父さんと仲が良いのは友達は大体知っている。
必要じゃない事は話さない様にしてるけど、全く話さないよりは怪しまれないと思って、二人で生活してるのは話していた。
(それじゃあさー、ふとした時にパパってかっこいいかも、って思う時あるの?)
休み時間に集まって話していた時に、友達の一人が聞いてきた。
もちろん冗談のつもりだろうから、鳥肌立つからやめて、と嫌悪感を示しておいた。
でもえりかちゃんは・・・含み笑いをしてたっけ。
そう、他の子は知らない。私達はお父さんと仲が良い。
そして、いけない関係なのはえりかちゃんですら知らない。知られたらいけない・・・・・・
きっと他の皆は知らないはずだ、自分の父親の、性器の具合なんて。
おっきくなった時の大きさ、どこを触れば反応が鋭いのか、黒子の位置、どんな色をしてるのか。