『湿気』-1
下駄箱には粉せっけん。
新聞屋が置いていった粉せっけんを、小さな紙の箱に入れて下駄箱に入れる。
洗濯物には新聞紙。
部屋干ししてある洗濯物の床下に、昨日の新聞紙を広げて敷く。
タンスには茶がら。
飲んだ紅茶のカスをレンジで乾燥させ、ティーパックの袋に入れてからタンスへ
……ってティーパックがないよ。
買いに行かなくては。
私は湿気対策に余念がない。
梅雨入りして１週間。
毎年来るものとは言え、なかなかこの湿り気には慣れない。
じめじめと気分まで落ち込む。
（明日、結婚式を挙げる娘の顔ではないな。）
鏡を軽く叩きながら、化粧を施す。
６月の花嫁は幸せになれる――ジュンブライドなんて、日本においてはちゃんちゃらおかしい。
この湿り気では、ウェディングドレスもさぞかし重いことだろう。
それでもジュンブライドにこだわった速人の優しさが分かっているので、６月挙式に反対しなかった。
結婚式前日って、こんなものなのだろうか。
有休をとって、明日に備えてみても、やることは家事くらいだった。
１か月前から、結婚に備え、私と速人は一緒に住み始めた。
同居生活は思ったよりうまくいっている。
お互い一人暮らし経験者だったので、家事は半分になり楽になったし、そんなにお互いに干渉しないでそれぞれ自分のしたい読書だのネットサーフィンだのを楽しむ。
悪くない滑り出しだろう。
なのに、なんでこんなに気が重いのか。
天気の所為だ。
この湿気の所為、この低気圧の所為……。
そう思って湿気対策を片っ端からしても、気は晴れない。
頭痛までしてきた。
じゃあ、あれだ。
昨日ちら見した速人の携帯の所為だ。
知らない女の子の名前から着信があった。
誰？と聞いてみたら、仕事関係と言っていたが、割となんでも話す速人との会話にその女の子の名前が出てきたことはない。
怪しい。
それで気が晴れないのだ……。
ウソだった。
速人は浮気したりしない。
本当は分かっている。
悩んでいるのだ。
「私」が。
明日、籍を入れて式を挙げるというこの期に及んで。
こんなに思い切りの悪い女だったかな。
自分自身に呆れてしまう。