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『湿気』
【大人 恋愛小説】

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『湿気』-3

「分かった。ごめん。俺、帰るわ。」

恐ろしいほど潔く、本多は言った。
正味30分。
10時間以上もかけて来てくれたのに。
昔から言葉が足りない。
だから私たちはうまくいかなかったのだということを、今更ながら気付かされる。

「最後に一つだけ聞かせてほしい。俺のこと好きだった?」

「知ってたから来たんでしょ?」

本多は哀しそうに少し笑った。

相変わらず、私たちは言葉足らずだった。
ディスコミュニケーション。
平行線はどこまでいっても、交わらない。

それで終わり。
駅にそのまま本多は入っていき、私は家に帰った。
映画のようにはいかないのが現実。

それで終わり。
明日、私はきちんとお嫁に行く。

それなのに、このジメジメ感はなんなのだ。
このモヤモヤ感はなんなのだ。
この頭痛はなんなのだ。

「幸せになれよ。」

改札に入って振り向きざまに言われた最後の言葉が胸にひっかかる。
幸せって、なんなんだろうね。

今まで絶対別れ際に振り向きなんかしなかったくせに。
最後だけ……私がいつも見えなくなるまで見送っていたことを知っていて……どこまでもずるい男。



午後5時。
うちから成田までは1時間強。

携帯の着信音が鳴った。
速人からの帰るコール。
いつものように何か買って帰るものがあるかを聞いてくる。

「お茶っぱを入れるティーパックを買ってきて。湿気対策の仕上げなの。」

私は頼んだ。めいっぱい明るく。

湿気でいっぱいになってしまった両目を押さえながら。


〔END〕
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