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『湿気』
【大人 恋愛小説】

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『湿気』-2



昨日のことだった。
明日の式の招待状の出欠葉書の「欠席」に思い切り丸をつけて送って来やがった本多が、いきなり私の前に現れたのは。

仕事帰りに、最寄駅で待ち伏せなんて、まるでストーカーだ。

「アメリカにいたのではなかったのでしょうか。」

一瞬人違いかと思ったが、あまりの衝撃に思わず敬語になってしまった私を、軽く鼻で笑ったので、本人だと確信した。

「あなたに会いに来た。そして明日午後7時の飛行機で帰る。あなたに言わなければならないことを言ってから。」

まるで英文を訳したような口調で言った。

「これからの人生を俺と一緒に歩んでいきませんか。」

それは、とりあえず駅とかで言われるべき言葉ではなかった。
それは、とりあえず2カ月連絡していない友人に言われるべき言葉ではなかった。
それは、とりあえず付き合ってもいない友人に言われるべき言葉ではなかった。
それは、とりあえず明後日に結婚を控えた女性に言われるべき言葉ではなかった。

「どうしちゃったの?頭おかしくなった?」

いきなりのプロポーズに思わず返した返事はそれ、で。

「自分でも常識はずれなのは分かってる。でも式に奪いに行くよりは、常識があると思う。」

昔の映画『卒業』のラストじゃあるまいし。
けど、結構これも、それに近い。

「招待状が来てから2カ月、毎日ずっと考えてきた。なんかむかつく。なんか式にいきたくない。それで今日までかかった。結論を出すのに……好きだ。」

えっ?
好きって気づくまでに今日までかかったんですか。
私たち、会社の同期だから、もう5年は友達やってますよね。
それまで少しも気づかなかったんですかね。
鈍感過ぎません?
子供過ぎません?
遅過ぎません?

私は、そんなもん、5年も前から気付いていたのに!!
好きで好きで好きで、でもどう考えてもふりむいてくれなさそうだし、友達として失いたくないから言えなくて、アメリカに3年計画で留学しちゃったから血のにじむような思いで諦めて、やっと新しい恋をして、結婚までこぎつけたのに。

「明後日、結婚するんですが、私は。」

一応確認してみると、すごくつらそうな顔で一言「分かってる」と言った。
その顔を見るだけで、こちらまで胸が苦しくなる。
私はまだ本多を好きなのだと、それで気付かされる。

それでも私は社会人だ。

「もうイイ大人なんだから。現実味のないことしないで。」

冷たく突き放すしかない。
だって今更、結婚をキャンセルなんてできない。
婚約破棄、債務不履行、不法行為。
会社にもいられなくなってしまうし、親戚にも顔向けできやしない。
……本当は、そんなことどうでもいい。

本多を諦めてボロボロになっていた私を救ってくれた速人を裏切るなんて、できるわけがなかった。


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