けんぽなし〜オトナ〜-8
ーダメっ!!やっぱりダメだよ!!偽善でも何でもいい…ダメだよ!!
私、ポケットのどんぐりを握りしめた。
太一が…耕太郎が…空が…
私の背中を押したように体が勝手に動き出す…
立ち上がると、歩の後を追った。
歩の香水の香りがまとわりついて離れない…
歩を引き止めてどうするのか…
分からない…
どうなるのか…
分からない…
ただ今は、このまま別れてはいけない…気がする…
「歩!!待って!!」
振り返った歩から香水の香りが流れてくる…
私は息苦しくなりながら、一歩、歩の方へ近づいた…
「やっぱり来た〜何?」
ー………
「………」
「やめないって言ったでしょ」
「……うん……でも…辛そうだったから…」
「っ……」
パシっー
!!っ
歩の平手打ちが頬を直撃した。
「バカにしてんの?あんた何様!?辛い?って〜?辛いわけないじゃない…金だって入るし、適当にやってればハブられなくてすむのよ」
ー……
「…歩?」
「あるでしょ…あんたにも、今の繋がりが」
「歩……」
「何よっ」
私、どんぐりを強く握り直した。
「…確かに…やめろなんて言える立場じゃないし、私は何も出来ないし…でも、歩の笑った顔が見たいの!!ちゃんと笑った顔が見たいの!!それは、偽善かもしれないし、自己満足なのかもしれない…でも…でもやっぱり歩は歩でいてほしい!!」
「はぁ〜?本当に、バカっ、絵梨沙も…友達に聞きまくって私の連絡先を突き止めたみたいだけど…」
「……絵梨沙が……」
「そう、…そこまでして保育園ごっこする意味が私には分からない…私、いつまでも子供じゃないから」
そう言うと、歩は私に背を向ける。
「歩…」
無言で遠ざかる歩の背中は急に小さく見えて…
私は、見送ることしか出来なかった…
歩の姿が見えなくなっても私は動けずにいた。
言葉が出てこない。
子供じゃないと言い放つ歩は大人だろうか…
あの頃のまま皆といたいと思う私は…
やっぱり取り残された子供みたいだ…
早く大人になりたい…
暑い日差しが突き刺さり、蝉の声が頭の中で響いていた…