投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

【イムラヴァ】
【ファンタジー その他小説】

【イムラヴァ】の最初へ 【イムラヴァ】 81 【イムラヴァ】 83 【イムラヴァ】の最後へ

【イムラヴァ:一部】第十三章 鷹の娘-7

 次の日、一行は二手に分かれた。山猫氏族のワイアットが彼らを率いて東に向かう。森の東に、大規模なクラナドの集落があると聞いていたからだ。ロイドは彼らにくれぐれも気をつけるように告げ、浅瀬に沿って南下する進路を取った。別離の寂しさを紛らわせたのは物語だった。アランは、ハーディをアラスデアの背に乗せて、自分の知っている中で一番楽しい話をしようとした。

「その代官は、とんでもない量の金を農民から巻き上げたんだ。いちいち難癖つけて、子だくさんの家は働き手があると言って税金の上乗せ、水車がよく回ってるから上乗せ、しまいには、今年の夏はよく晴れたからって上乗せだ。本当のところ、その夏、太陽が見られたのはほんの数回だったのに……むちゃくちゃだろ?それで、余計に取り上げた分は全部自分の懐行きだ」ハーディの頬には、涙の跡が残っていた。しかし泣きはらした目は、今は輝いている。

「そこで、クリシュナの登場だね!」尻尾を振りながら彼は軽く飛び跳ねた。

「そう。一体どこからそう言う噂を聞きつけてやってくるのか……とにかく、クリシュナは夜の闇に紛れて、音もなく屋敷の中に忍び込んだ。黒い髪、暗い肌、黒い瞳で……手袋の指先からブーツのつま先に至るまで黒ずくめだ。風を受けて広がるマントは烏の翼の如し……」ここまで熱く語っていると、前を行くグリーアがフンと鼻を鳴らした。

「とにかく、かっこいいんだ」アランは当てつけがましく締めくくった。ハーディも熱烈にうなずく。

「うん、わかるよ。かっこいい」

「代官の家には、巻き上げた金で集めた宝石が山のようにあった。クリシュナは、それを根こそぎぶんどって、ついでに、その時だけは金貨も盗んだ。次の朝、その代官は大慌てさ。村人も、屋敷の人間も、彼の姿を見た者は居ない。でも、宝石が盗まれたって聞いただけで、誰の仕業かすぐわかった。でな、すごいのはここからなんだよ」

アランは、昔、鋳掛け屋のグレンが自分にそうしたように、良いところで話を中座して一息入れた。ハーディは待ちきれない様子でアランの顔をじっと見ている。えさをねだる雛のようだ。自分も小さな頃はこういう表情をしていたのかと思うと、少し可笑しかった。

「次の日には、クリシュナは別の村の屋敷で同じことをしてた、代官も、クリシュナを匿ってる家がないか調べるようなことはしなかった。何日も同じ村にとどまるような間抜けじゃないからな。代官はただ爪を噛んで、空っぽになった宝石箱を見てるしかなかったんだ。で、次の日農民達がいつものように畑に出て、農作業をしてた。すると、土の中に何か光る物がある。拾い上げてみたら――」

「金貨だったんだ!」ハーディが歓声を上げた。

「そう。全ての家の畑に、金貨が埋まってた。一晩の間に、忍び込んで、盗んで、全ての畑に金貨を埋めたんだ。でも、その話を聞きつけた代官は、すぐさま家来に全ての畑を掘り返させた。盗まれた金貨を取り戻そうって、そりゃあもう、てんやわんやの大騒ぎさ。家来達は泥まみれになって探した。それがちょうど春のことだったんだ。

農民はみんな喜んだよ。自分たちが畑を耕す手間を、あの代官の家来が省いてくれたんだから。よく耕された畑には、その年沢山の作物が出来たんだってさ」

 すっかりクリシュナの崇拝者になったハーディは、アランが知っている限りの全ての話を聞きたがった。ハーディとアランが会話を続け、前を行くロイドとグリーアとはほとんど口をきかなかった。ロイドは黙り込み、何か気にかかることでもあるのか、自分の頭の中で考えを巡らせているようだった。グリーアが時折話しかけても上の空で、何度も聞き返していた。師弟関係の2人の間柄に、この間の一件で亀裂が入ったのだろうかと邪推しても見たが、どうやらそうではないようだ。グリーアの声には尊敬の念といたわりがにじみ出ていたし、ロイドも彼に対して怒るそぶりは見せていない。アランは、森の上を通り抜けていく風の音を聞きながら、頭上を見上げた。輝く若葉と、細い木の枝が、風の手に揺らされてゆっくりとしなっている。彼らにしか聞こえない、優しい歌に合わせて身体を揺すっているようだ。

 誰にともなく、不意にロイドが言った。「今夜は雨になるじゃろう」


【イムラヴァ】の最初へ 【イムラヴァ】 81 【イムラヴァ】 83 【イムラヴァ】の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前