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【イムラヴァ】
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【イムラヴァ:一部】第十三章 鷹の娘-6

「明るい太陽の元で、兄弟は、性根も姿形も醜い者たちを追い立て、やがて西ノ海に浮かぶ島の、黄泉の世界へ続く洞窟に閉じ込めた。ほんのわずかの善良な獣たちだけを残し、醜い者達はすべて地の底に眠ることになった。

 ヘレンは平和な光の下で、獣や木々の、新しく善良な霊を沢山作った。この世は光と美しい者たちで満ちた。

 兄の鷲――今はグリフィンと呼ばれておる――黄泉の世界へ続く洞窟から悪いものが出てこないように、弟の渡りガラスを見張りに、自らも洞窟の守りについたのじゃ。鷹は諸国の王となり、兄はその傍らでいつまでも弟を助け支えた……おそらく、クナトの話はこういう昔話が元になっておるのじゃろう。渡りガラスは、洞穴とその奥に閉じ込められた者達の見張り番だと言われておる。時にあの辺りにたくさん飛来することがあるんじゃ。渡りガラスの羽根は確かに吉兆とは言えんな。しかし、怪物がその穴から出たというところを誰も見ておらん以上は、何も確かなことは言えんよ。渡りガラスは不死の国に住む彼らの祖先の元に死者を送り届ける死に神として知られておるが、そこから新しい命を運んで来たり、冥界に入った者を助け、現世に戻る案内をする役目もあるのじゃ」

  アランは、みんなの目がアラスデアに注がれているのを感じた。ロイドは、暗にみんなに伝えたのだ。この獣が、昔話の兄弟の末裔だと。

「うわぁ」ハーディは、感嘆のため息を漏らした。ハーディはトルヘア島の生まれだ。エレンの昔話が周りにあふれている状況ではない。彼は初めて聞く物語に興奮して目を輝かせた。

「じゃあ、ロイド。アラスデアはその鷲の一族なの?」

「ただの伝説じゃ」ロイドの頬はもう赤くなっては居なかった。その目はひたと、硬く口を閉ざしたままのアランに据えられていた。「だが、弟はその賢さで言葉を持つものの王となり、兄はその勇敢さで言葉を持たないものの王になった……と、いわれておるよ」

「じゃあ、アラスデアは王子様だね!」傍らのアラスデアも、そう言われて嬉しいらしく、誇らしげに頭をそらせてごろごろと喉を鳴らした。

「さて、明日はいよいよ出発じゃ」ロイドがぽんと手を叩くと、魔法が解けるように、静謐な空気が消えていった。「道中の無事を願って一杯――といきたい所じゃが、もう酒がないのう」

酒がないので、道中の無事を祈るのには、傍らの浅瀬の清水が使われた。別れ別れになる者同士が、乾杯し、互いに腕を組んで杯を干した。アランはメリッサと組んだ。

「どうかご無事で」アランが言うと、彼女は下を向いて少しほほえんだ。アランがつられて下を見ると、その手には小さな袋が握られていた。「浜菅の根よ。月の物が重い時に呑みなさい」彼女は下を向いたまま囁くと、アランの手にそれを握らせた。

「あ、ありがとう」彼女はアランに、いいから杯を干せと目で示し、自分もそうした。



「お元気で(スラン)」

別れの言葉が交わされ、抱擁が交わされた。ハーディは、ボーデンやディーンと別れるのがつらくて泣き出してしまった。結局彼はボーデンの腕の中で泣き疲れて眠ってしまった。それを革切りに、一人、また一人と遠慮がちに眠りについた。眠りに落ちる前、誰かがこうつぶやいたのを覚えている。

「ああ……」風に吹かれればかき消えてしまいそうな、小さな声だった。「エレンじゃ、もうリンゴの花が咲く季節か」


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