死神のイメージ-3
「まったくの白紙。雪景色に負けないくらい、放課後の私はフリーダムなんです」
そこまで聞いてないだろうに、余計な付け足しまでしてしまう。
変だ、きっとそう思ってる。でも無理もない、気になる人が話し掛けてきたんだもん。
「良かった。では少々僕に付き合ってもらえますか」
「そ、それって・・・?」
「駅前の噴水でお会いしましょう。大事なお話があります。待っていますよ」
尚志くんはひらりと踵を返し、私より早く教室に戻っていった。
ふわりと整髪料の匂いがして、普段は何もつけないのにと首を傾げたけど、そんな事は些細な問題だった。
その日の私はにやにやしっぱなしで、伸ばしてもすぐに口角が上がってしまった。
形を覚えているバネの様に、気を抜いたら笑ってしまう。
だから友達の前で無表情でいるのが大変だった。
笑ったらばれる、問い詰められたら秘密を隠し通せない、そうなったら終わりだ。
一秒が一時間に感じたのは、今まで生きてきた中で初めてかもしれない。
「すみません、突然呼び出してしまって」
待ち合わせの場所で、立って私を待っていた。
白いワイシャツをきっちり着こなした姿は、学校で見るよりも清潔に感じる。
近くには高校生のカップルが何組か居て、話したり笑ったりしてそれぞれの時間を共有している。
もうすぐ私達も仲間入りするのかな。
そう思うと胸の奥が締め付けられる様に痛んだ。
「こちらへどうぞ」
ベンチにハンカチを敷いて、座る様に手で示している。
いつもならくすっとしてしまう様な行動だけど、
私は捕えられて離れなくなる魔法にかかった様に、ベンチに吸い込まれていった。
「・・・実は、貴女に話さなくてはならない事があるのです」
目が合った瞬間、いよいよだと生唾を飲み込む。
告白されるなんて初めてだ。もし彼の口から聞いてしまったら、無事でいられるかな。
もう心臓が破裂してしまいそうなのに、ショックで分裂して二つになったらどうしよう。
大丈夫だ、まだこんな下らない事を考えられる余裕があれば・・・・・・
「僕、死神なんです」
針が外れた。
風船を思い切りついて派手に破裂させてくれるんじゃなかったの?
私が聞きたいのはそういう冗談じゃなくて、もっと大事な事なのに。
「・・・・・・言えた。ふう、言ってしまいました。さあ仲澤さん、僕とお付き合いしましょう!」
針は一本じゃなく、正面からもうひとつの針が風船を真っ直ぐに貫いた。
気持ちをぶつけられて固まっている私の手を握り締め、立ち上がらせる尚志くん。
しっかり握ってくる手を締め付ける痛みを思い出した時は、電車に座っていた。
「あ、あの、尚志くん、どこに行くの?」
「分かりません!でも心配は無用です、僕は命を奪わない死神ですから」
また死神って言った。
もしかして私を口説く口実じゃなかったのかな。