第4話-2
やはり、やるべきでは無かっただろうか。
早貴は俺の前ではいつも明るいけれど、本当は父親としてしまった事を悩んでるのかもしれない。
いいや、見てる感じはいつもと変わった様子は無いし考え過ぎかな。
体に触らなくなったのは確かだが、それは休みの日にやるおねだりのキスに限った話だ。
冗談を言えば呆れた様に肩を叩くし、間違えばしっかりしてよという様に叩く。
どうも考えすぎるのが俺の悪いくせみたいだな。梅田に良く言われるんだ。
(でも、叩く時にあまり笑わなくなった気がする・・・)
思ったそばから考えはじめ、危うく降りそびれそうになった自分に笑うしかなかった・・・
定時きっかりで役所を出て、今度はわりと余裕があるバスの中で天井を見上げた。
(・・・もし、あいつや息子がこの事を知ったら、どう思うかな?)
そんなもの、気味悪がるに決まってる。
そして、下らない事を考えるならたまには電話してやれと自身を一喝した。
しかし、わざわざ電話する用事も無い。果たしてこんな調子で、一緒に暮らせるのはいつになるのか。
「ただいま〜・・・」
熱気の籠もった玄関から居間を覗くと、テーブルに早貴が突っ伏していた。
まだ寝るには早いだろうと思いながら、起こさない様にそっと近くを通ろうとしたら・・・
「わっ!!」
「うわあああ!あ・・・あ?さ、早貴・・・?」
「お帰りなさい。ちょっと涼しくなった?うふふふっ」
「肝が冷えたぞ・・・お前な、寝てるなら寝てるって言えよ」
「寝てたら言えないじゃん」
まったく・・・いい加減、父親を驚かす趣味は卒業したらどうだ。
完全に寝てたと思ったぞ。
心配は果たして何処吹く風だったのか、娘はけらけら笑っていた。
「私、大丈夫だから」
「・・・そうか、なら心配いらないな」
「自分で決めた事だもん。だから、大丈夫。後悔なんてしてないよ」
制服を着替えもせず、悪戯する為に俺が帰るのを待っていた早貴。
後悔していない、と言い切ったその姿は、何だか子供には見えなかった。
早貴、お前は、俺が思っているほど子供じゃないんだな。
嬉しい様な、ほっとした様な、色んな気持ちが交ざり合った中に寂しさが過る。