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【片思い 恋愛小説】

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春2.5-1

四月は嫌い。

新しい出会い=新しい人間関係の始まり。
なんてめんどくさいんだ。


「睦月さぁん、ここはどうしたらいいんですかぁ?」

新卒の女子社員の甘えた声を聞くとイライラする。

「あぁ、これはね、」

もちろんどす黒い心の声は表には出さない。
あたしは仕事のできる優しい先輩なのだから。

「ありがとうございます、睦月さん!」

おかげでやたら後輩に慕われて話しかけられるという最悪な状態ができあがってしまった。

新人教育って大っ嫌い。
こっちの仕事は遅れるし、しかもペアになった子が何回言っても覚えないバカで使えないし。

ただ、きちんと質問に答えてやればその分あたしの株が上がる。それだけでも利用価値があると言えるかな。




新入社員のせいで仕事は倍に増えた。
当然残業も増えた。

「…ちっ」

周りに誰もいないのを確認して舌打ちをする。

新入社員を早々に帰らせて、静かになったところで手を付けられなかった自分の仕事に取り掛かった。

あいついないと集中できていいわ。
大体、何であたしが新人教育なんかしなきゃいけないわけ?
もっと暇そうな連中がいるじゃない。
アラサーの独り身の女は暇そうってか?
バカにしないでよ。
あたしは暇じゃない。
忙しくもないけどね。

心の中でイライラを爆発させていると、事務所のドアが開いて慌てて顔を作った。

「おぉ、睦月」

入ってきたのは同僚の小松。
付き合いも長いしよく話す相手だけど、それは所詮上っ面の話。
あたしのどす黒さには気付いてない。

「残業か?」
「うん、そっちは?」
「終わったからこいつと飯食ってくる」

こいつ?
よく見たら小松の後ろにもう一人…

げ。

「新人の永沢。結構話が合ってさ――」

小松に紹介されたこの男は社内で唯一あたしの本性を知る人間だ。
それだけでも関わりたくないのに、あろう事か先日こいつはあたしに告白してきた。
あたしの本性を知っていながらだ。
だから言い切れる。

こいつは絶対頭がおかしい。

「小松は帰らなくていいの?可愛い奥様がご飯作って待ってんでしょ」
「いや、あいつ今実家帰ってるから」
「え、…あぁ、そっか」
「おぉ、じゃあな、お先」

足取り軽く帰って行く小松の後ろの新人野郎に目をやると、

「お先です」

爽やかな笑顔をあたしに向けた。

…なんか、やな感じ。


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