春2.5-7
永沢だって、そりゃ最初はうっとおしかったけど今は違う。
今は、
「…」
今は…、会いたい。
「話はそれだけだから」
小松に悪気はない。
こいつはこーゆう奴なんだ。
変な正義感があって、自分の大事な人間を守りたいだけ。
「明日永沢ここに来させるから、ちゃんと断れよ」
「…」
分かってる。
これは全部自分が撒いた種。
人を見下してけなして、キラキラ輝く仮面を被り続けた自分への報いだ。
永沢の笑顔を思い浮かべたら、喉の奥がヒリヒリした。
そうか、あたし永沢を好きになったんだ。
だから明日が来るのが楽しみだったんだ…
ガラにもなく会いたいなんて思ってる、久し振りの恋だった。
昼休み終了間近、小松と入れ替わるように女子社員が何人か入って来た。
足音が聞こえた時点で物影に隠れたあたしにそいつらは気付かず、ペチャクチャとお喋りが始まった。
見つからないようにその様子を覗くと、メンバーは新入社員ばかり。
「いい男いないね。おっさんばっか」
小娘共が、上から目線で男の品定めしてやがる。
「でも小松さんかっこ良くない?」
「結婚してるって」
「今奥さん実家に帰ってるらしいよ!」
「マジで?不倫いっちゃう?」
くっだらない会話…
小松が不倫なんかするわけないじゃん。
「あいつは?同期の永沢!」
「あー、結構いいよね」
永沢か。
あいつ人気あるんだ。
「あたしもいいと思ってたけどさ、永沢って睦月さんを狙ってるみたい」
「…っ」
思いがけず飛び出した自分の名前に声が出そうになった。
何でそんな事知ってんの!?
音を立てないようにジッと耳をすませた。
「マジで!?永沢ってあーゆうの好きなの?」
あーゆうのってどーゆう意味よ。
「多分ね。永沢っていっつも睦月さんにばっか聞きに来るし」
その声の主はあたしとペアになったバカ新入社員。
あたしに聞きたいんじゃなくてあんたが頼りないだけなんじゃないの?
ていうかこの女、仕事中はたらたら喋るくせに、ちゃんと話せるんじゃん!