第2話-1
ヤニがべっとり付着し黄色くなった天井を見上げながら、ため息の代わりに煙を吐き出した。
・・・最近ずっと娘の事が頭から離れず仕事に集中できない。
脳にシールの如くぴたりと貼りつき、剥がそうとしても剥がすことが出来なかった。
(なんで早貴は俺にあんな事を・・・)
俺だって娘の事は好きだし、大切に思っている。いつまでも可愛い娘でいてほしい。
「!」
何気なく触れた煙草の感触で、昨日の早貴の唇を思い出して思わず灰皿に押しつけてしまった。
(・・・どうかしてるぞ、俺は。煙草と唇じゃまるっきり感触が違うだろ・・・)
喫煙所だけとはいえ、我が家よりは自由に吸えるのに、せっかくの煙草が旨くない。
「どうかしたのか?中島」
「・・・・・・梅田か」
同僚が入ってきたので取り敢えず笑顔を作っておいた。
「考え事か?最近ちょっと上の空みたいだが」
「・・・ちょっと、娘の事でな・・・」
それしか言わなかったが梅田は俺の心情を察してくれたみたいだ。
一旦喫煙所を出て缶コーヒーを買い、手渡してくれた。
「難しいよな、年頃の女の子ってのはさ」
「まあな」
人には事情があるとはいえ一応役所勤めの人間が離婚寸前なんて、やっぱり恥ずかしくて公には出来ない。
だが、梅田とは古くからの知り合いだから腹を割って話せる仲なので、既に女房と離れて暮らしてる事は話してある。
「片方しかいないと色々辛いだろうと思ってな。娘はわざわざ口に出して言わないが」
「ま、そんな考え過ぎるなって。夫婦なんて何年も一緒に居りゃ飽きるさ」
「・・・そうだな。あまり悪く考えるのも良くないか」
直接会ってはいないが電話は欠かしてないんだし、梅田の言うとおりだな。
「たまに会うくらいでいいんじゃないか。つかず離れず、とまでは言わんが」
よく見ると梅田は煙草の他に弁当箱を持っていた。
そろそろくたびれ始める年齢の男には似付かわしくない、派手な暖色系の弁当箱。
「えりかちゃんが作ってくれたのか」
「え?ああ、これか。丁度昼だし持ったままだったなアハハハ」
「見せつけに来たんだろ。羨ましいなぁ娘と仲良しでよ」
「いやいや、別にいいって言ったんだけど作りすぎちゃったからって娘が・・・」
分かるさ。嬉しいよ、娘に弁当作ってもらえるのは。
えりかちゃんは変わらずいい子みたいだな。しばらく顔を見てないが、元気かな。
昔はよく家に遊びに来てたっけ。早貴が梅田の家に遊びに行く事も多かった。