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【片思い 恋愛小説】

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春A-1

『新入社員は入社後一ヶ月は基本残業なし』

それを聞いて喜ぶ同期達の中、俺だけが一人ガッカリしていた。
なんてこった。
それじゃ睦月さんを誘うきっかけが作れないじゃないか。


睦月さんは事務所の中では一番年上で、いわゆる"お局様"のポジションにいる。
だからと言って世間一般で言われるような煙たがられる存在ではなく、頼れるお姉さんといった感じ。
先輩後輩関係なく好かれて頼りにされて、美人で笑顔が素敵なみんなの憧れ。


………これが仮の姿だと知ってるのは、俺だけ。




お昼休み。
他の社員に気付かれないように警戒しながら屋上へ向かった。

「睦月さーん、一緒にお昼食べませんか?」

コンビニ袋を下げて現れた俺を見て、睦月さんは明らかに機嫌悪そうに舌打ちした。
目が「また来たのか」と言ってる。
そりゃそうだろうな。
ここんとこ毎日昼時は屋上に通っているのだから。


「あたし、一人で食べるのが好きなんだよね」

低い声。
伏し目がちの瞳。

ゾクゾクします。

「じゃあ離れて食べますね」

ほんとはぴったりくっついて食べたいところを堪えて、数メートル距離をとって座った。

「いい天気ですね」
「…」
「やっぱ春って気持ちいいですよね」
「…」
「外で食べると何で美味しいんですかね」
「…」
「睦月さん、お弁当手作りで――」
「聞こえ辛いから近くで喋って」
「マジっすか!いいんですか!」
「…うっとおしいけど」
「じゃあ失礼しまーす!」

剥き掛けのおにぎりと残りのおかずを持って隣に座らせてもらった。
そこへ春の柔らかい風がスッと通り抜ける。
睦月さん、超いい匂い。
風下最高!

「で、何?」
「え、あ、お弁当!手作りですか?」
「そうだけど」

卵焼き、煮物、ブロッコリー
美味そう。
手料理食いてぇ…

「人のお弁当ジロジロ見ないでくれる?」
「俺のと交換しませんか?」
「やだ」
「じゃあ卵焼きを…」
「やだ」

そう言って睦月さんは残り一つの卵焼きを口の中に放り込んだ。


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