春A-4
「え、そうなの?」
「だって屋上って思ったよりつまらんしさ、食堂でわいわいしてた方が楽しいじゃん」
「じゃあ明日一緒に食べようよ」
「…いいけど」
「やった!約束ね」
目の前に小指が出された。
「…何?」
「約束と言えば指切りでしょ」
「はぁー?お前いくつだよ」
「いいじゃん。ほら永沢も指!」
渋々小指を出すと、細くて白い小指がキュッと絡んできた。
「ゆーびきーりげーんまーん」
楽しそうに笑うこの子が睦月さんだったら、なんてあり得ない妄想をした。
こっちは全然笑えない。
明日から俺はここに来れないんだ。
ただ睦月さんと二人でいたかっただけなのに。
「永沢、元気ないねぇ」
おめーのせいだよ、おめーの!
「んなことないけど」
「ふぅん?ね、永沢ん家って近い?」
「車で30分」
「遊びに行ってもいい?」
「何でだよ!」
「いいじゃん、行きたい」
「来んなよ、俺んち実家だぞ」
「別にいいよ」
「俺がやだよ」
食べかけのおにぎりを口に入れてさっさと帰る支度をした。
何なんだよ、こいつ。
人が飯食ってる時にペチャクチャ話しかけてきて、落ち着いて食えねぇじゃんか。
なんかこいつ…、俺みたい。
そうだ、俺もこんなんだ。
一人がいいと言う睦月さんに付きまとってペラペラ話しかけて…
「…」
睦月さんも、俺の事こんな風に見てたのかな。
俺も、邪魔な奴って思われてたのかな。
「永沢?」
「もう下行こうぜ」
「え!まだお昼休み終わらないよ?」
「屋上いてもつまらんっつったじゃん」
「ふぅん」
俺の方からこの場所を手放すのは嫌だった。
でも元はと言えば俺が調子に乗って入り浸ったりしたから。
そのせいで物影に隠れて見つからないようにジッと息を潜めてる睦月さんに、大声で謝りたかった。
本当はその姿を目で追いたかったけど、こいつにばれたら困るからそれもできない。
事務所に行けば睦月さんに会える。
でもそれは本当の睦月さんじゃない。
ここに来れなくなったら、もう会えないじゃないか…