春②-2
「あぁっ」
「何であたしがあんたに手料理食べさせなきゃいけないのよ」
「秘密を共有する仲じゃないですか」
「黙れ」
「…すんません」
相変わらず手厳しい。
これが睦月さんの本性。
表のように笑顔の安売りはしない。
無愛想だと言ってしまえばそれまでだけど、俺は凛としていてカッコいいと思う。
俺だけが知ってる、本当の睦月さんだ。
「睦月さん、食堂で食べないんですか？」
「誰かと一緒にご飯食べるのが嫌いなの」
「…俺に言ってます？」
「あ、気付いちゃった？」
「気付いちゃいました」
しゅんとする俺を見て、睦月さんは静かに笑った。
"裏モード"の時に見せる笑顔は、表の時より遥かに自然で可愛い。
ガラにもなく胸の奥がキュンとなる。
「…睦月さん」
「何？」
「俺まだ告白の返事もらってません」
「ごめんなさい」
「早っ」
瞬殺。
「もう少し考えてくれても…」
「考えるまでもない」
「本気で好きなんですって」
「それは表の方がでしょ」
「違います、素の方です」
「尚更イヤ」
「えぇ!?」
「そんな奴は精神的にどうかしてるに決まってる」
真面目な告白は紙屑のようにクシャクシャにされた。
大丈夫、これは想定の範囲内だ。
年下の無邪気さを利用するんだ！
「何か一口下さい！」
「嫌」
手作りの品じゃなくてもいいから、睦月さんが焼いたウインナー、睦月さんが研いだ米、解凍しただけのシュウマイでもいいから…っ
ていうか、俺の願望が段々変態っぽくなってる！
堂々と目の前に現れる開き直ったストーカーみたいだ。
「あのさぁ」
「…あ、え!?」
「あんた若いんだから、もっと若い子に目を向ければいいでしょ」
「睦月さんがいいんです」
「変な子」
「それと、俺はあんたじゃなくて永沢です」
「…永沢？」
「はい。永沢たつるです」
やっぱり名前も覚えられてなかったか。
そりゃそうだわな。