投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

『Scars 上』
【その他 その他小説】

『Scars 上』の最初へ 『Scars 上』 3 『Scars 上』 5 『Scars 上』の最後へ

『Scars 上』-4

その時。

風が吹く。
頬を撫でるような、緩やかな風。
「……あん?」
不意に花の匂いを感じる。
道沿いに立つ桜の木。
見事に満開だった鮮やかな花びらを、ここ最近の冷え込みで儚く散らしている。
そんな桜の香りの中に、わずかに漂う別の香り。
派手な喧嘩をした後には場違いなほど、高貴で儚げな香り。
「お兄さん達、ヒマしてない?」
次いで聞こえる女の声。
夜風に高鳴る鈴のような、耳障りの良い声。
かつんと、足音が聞こえる。
路地の影から、優雅に歩み寄る人影。
すらりと伸びた足を黒のニーソックスで包み。
ひらひらとわずかに覗く制服のスカートを白いパーカーで隠す。
夜空を舞うように流れる長い髪に、優雅な笑みを浮かべる整った白い顔。
何よりも印象的なのは、意思の篭った切れ長の、美しい瞳。
春の夜空に舞う桜に負けない、鮮烈な美しさを孕んだ瞳。
幻想的とも言える風景の中、一人の少女が立っていた。
はっとするほど、綺麗な女だった。
「誰だ……?」
不意に警戒を強めたのは、少女に対してではない。
その背後に立つ巨大な人影に対してだった。
筋肉で膨れ上がった胸板に、丸太のように太い腕。
二メートルくらいあるかと思わせるほどの身長。
遥か高みから、闇夜にぎらつく獣のような目で俺たちを見下ろしている。
圧倒的な存在感。
それなのに、今まで全く気配を感じさせなかった。
「こんばんは」
少女が歌うようにささやく。
妙な組み合わせの二人組み。
可憐な美少女と野獣のような大男。
少女の背後に立つ大男は、悠然とこちらを見下ろすだけ。
「とりあえず……」
女が見とれてしまうほど、艶やかな笑みを浮かべる。
「喧嘩しましょうか♪」
不意の鈍痛。
頬に焼けるような痛みを感じた。
場違いな笑みを浮かべた女が手に持つのは、物々しい木刀。
アレで殴られたのだ。
「オマエ!」
頭がかっと熱くなった。
拳を握り締める。
部下達が俺の前に立ちふさがるのが見える。
女だろうが、容赦はしない。
そう思って、女を睨みつけた時。
部下達が宙を舞っていた。
大男の一撃。
信じられなかった。
なぎ払うように振るわれた大男の手に、部下達が弾き飛ばされていく。
「ちょっと、シバ! あたしの獲物をとらないでよ!」
慌てたように大男を止める女。
それでも、大男は止まらない。
「……」
俺と目が合ってしまったから。
獣のような目で俺を睨む大男。
「クソが」
女に殴られた頬に手を当てて、俺は構えた。
シバと呼ばれた大男が何か察したように、俺を見据えて構える。
一瞬の静寂。
寒空に当てられた桜の花びらが、場違いなほど優雅に宙を舞う。
「シバ!」
女の静止の声。
それを合図にしたかのように、シバが動き出す。
一撃。
二撃。
左右の腕で、シバの攻撃を凌ぐ。
早い、そして重い。
その巨体に見合わぬ素早い動きを見せるシバに反撃をしようとした。
瞬間。
シバの巨体が深く沈む。


『Scars 上』の最初へ 『Scars 上』 3 『Scars 上』 5 『Scars 上』の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前