『Scars 上』-14
足を止めたのは、繁華街だった。
夜の繁華街は大勢の人でごった返している。
膝に手をついて呼吸を整える。
制服のブラウスが、汗で肌に張り付くのを感じる。
気持ち悪い。
「なんなのよっ! もうっ!」
怒りに任せて、近くの自動販売機を蹴飛ばした。
バチバチと、一瞬だけ照明を明滅させる自動販売機。
それを見ても、怒りは収まらない。
「あいつ……」
唇を噛みながら、一人の少年の姿を思い浮かべる。
人を喰ったような笑みを浮かべる、背の高く、鋭い目つきをした少年。
頬に張り付く髪を払う。
襟を掴まれて、間近に迫った少年の顔。
暗闇に浮かんだ白い肌に、真っ赤な唇。
私を見つめるその瞳は、鋭利な刃物を突きつけられたようで――。
「くっ」
歯を思い切りかみ締める。
夢に出てきそうだ。
……負けると思った。
ケータイの位置情報通知サービス。
そんなものに自分が助けられるなんて、思ってもみなかった。
あのまま、シバが来なかったら。
「うおっ、あぶねえな!」
肩が誰かにぶつかる。
足をもつれさせる酔っ払ったサラリーマン。
「気をつけろや、ねーちゃん!」
サラリーマンが近寄ってくる。
ゴミの分際で。
「な、なんだよ。そんな目で睨むなよ……」
急に青ざめるサラリーマン。
ほんの少し睨んだだけなのに。
情けない。
男なんてみんなこの程度だ。
どいつもこいつも腰抜け。
私に敵いっこない。
それなのに。
脳裏をよぎる、一人の少年の姿。
「ふう」
慌てて逃げていくサラリーマンを尻目に、私は空を見上げる。
星ひとつ浮かんでいない、淀んだ空。
――私は。
目線を下ろして、明るい通りを見つめる。
様々な人々、灯り、音、匂い。
混沌としたそれらを睨みつけて。
――私は、誰にも負けない。
私は歩き出す。
この胸にくすぶるどうしようもない気持ちを抑えて。
今夜の獲物を探すのだ。