『滝くんの秘密』-9
「ん…」
目を開けると目の前に本棚がそびえ立っていた。
(あのまま寝ちゃったんだ…)
滝くんはまだ寝ているみたいで耳元で規則正しい息遣いを感じる。そっと滝くんの方を向いて寝顔を拝見してみる。
(やっぱり睫毛長いなあ…)
滝くんの寝顔がとても可愛くてにやにやしていたら、見られていることに気付いたのか滝くんの目が開いた。
「あれ…今何時…」
そう言って起き上がった滝くんはベッドサイドの時計をみて絶句した。
「どうしたの?」
「時間がない…父さんが帰ってくる!早く服着て!」
「は、はい!」
こんなに余裕のない滝くんをみるのは初めてだ。慌てて服を着て、手鏡でメイクと髪型をチェックする。
「準備できた?早く!」
「ちょ、ちょっと待って…」
手を引かれて部屋を出た瞬間ー
「ただいま〜」
という陽気な声が聞こえた。
「遅かった…」
と滝くんがうなだれるのと、
「あれ?ブーツ?女の子!?」
という声が聞こえたのはほぼ同時だった。
だだだっと足音がして滝くんのお父さんが走ってくるのがわかった。
(きちんとあいさつしなきゃ…)
焦る私の横で滝くんはうなだれたままだ。
「あっ!いた!」
声のした方に顔を向けるとそこにいたのは…
「あれ?お母さん…?」
「いや…父さんだよ…」
「え?でも…」
そこにいたのはアラフォーくらいの女の人だった。高そうな毛皮のコートを小脇に抱えて、キラキラした黒のドレスを身に着けている。
「彼女連れて来るならちゃんと言いなさい龍之介!」
近くでみると切れ長の目元が滝くんにそっくりだ。呆気にとられていた私ははっと我にかえって挨拶をした。
「は、初めまして!私佐々山こゆきっていいます!」
「こゆきちゃん?かわいい名前!初めまして、龍之介の父親の浩司です。びっくりさせてごめんなさい。あ、せっかくだから夕飯うちで食べて行けば?龍之介、準備してあげて。私はこゆきちゃんと話したいから。じゃ、着替えしてくるね〜」
滝くんのお父さんは早口でそうまくしたてるとすぐ側のドアを開けて消えた。
「…ん?お父さん?お母さん?」
「じゃあ佐々山さんとりあえずリビングに…」
滝くんは混乱している私の手を引いてリビングに連れて行ってくれた。