このかけがえのない世界へ2-4
「いえ、結構ですよ」
「いや、せっかくこんな村に来てくれたんだ。是非とも我が家自慢のコックたちの腕を確かめて欲しい。なぁに、一口だけで構わないよ」
「…はぁ、そこまで言われては仕方ありませんね」
眼帯の人は微笑み、ステーキを一口食べた。
柔らかいとまでは言えないが、料理としては十分だった。
「ん…おいしいですよ」
「そうかい! それは良かった!」
「でも、少し変わっているお肉ですね。
何のお肉なんですか?」
男は満面の笑みを浮かべ、そして言った。
「さっき旅人さんたちと一緒にいた、私の妻ですよ」
辺りはまだ昼だと言うのに暗かった。
四方八方、見たこともない巨木が生え、上の方からは何か蔓性の植物らしいものがぶら下がっていた。
「もう、あと少し。この先だよ」
男がそう言い終わるやいなや、目の前がパッと開けて大きな平野に出た。
長い長い一本道が続いており、遠くの方にはうっすらと町らしきものが見える。
「ここまで来ればもう道には迷わないだろう」
「わざわざ道案内まで、本当にありがとうございました」
眼帯の人が頭を下げると、それを見たアルもペコリと同じ動作をした。
「いやいや、困ったときはお互い様さ。それに昨日は本当に楽しかったしね」
男はニコニコしながら、2人を見ている。
「あの、最後に聞きたいことがあるのですが」
「なんだい?」
「その…奥さんのことですが…」
「あぁ、流石にあれほどの美人だったからな。いやぁ、おいしかったな」
男はニコニコした顔を崩さずに続けた。
「なぁに、妻なんてまた娶ればいいことだ。
それより旅人さん。またいつでも僕たちの村に来てくださいね。今度はもっと豪華なお料理を用意するので」
「…そうですか。それは楽しみですね。
では、私たちはこれで」
そう言って、眼帯の人とアルは長い長い一本道を歩き始めた。
しばらく歩いて、アルがぼそっと呟いた。
「お腹、空いた」
眼帯の人はもう昼だと言うのに全くお腹が空いていなかった。