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このかけがえのない世界へ
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このかけがえのない世界へ1-1

薄暗い森の中の小道を人が2人歩いていました。

1人はやや背の高い黒髪の若い人でした。
精悍な顔つきで左目には黒い眼帯をしています。
黒くて長いコートを身に纏い、腰にはホルスターが見えています。

隣りのもう1人はやや背の低い茶髪の少女でした。
まだ幼さが抜けておらず丸い小さめの眼鏡をかけています。
女の子らしい可愛らしい服を着ています。

2人が黙々と歩いていると、急に鬱蒼とした森の小道が開け、大きな大きな家が現れました。
その家は装飾が美しくまるでお城のようでした。

「家だね」

「だね」

「行き止まりだね」

「だね」

「引き返そうか」

「うん」

眼帯の人が尋ねると少女は短く答えました。

そして2人が元来た道を戻ろうとした時、眼帯の人の腕が掴まれました。

「た、頼む! 俺を殺してくれ!!」

見ると中年の男が眼帯の人に必死にしがみついています。

「どうしてですか?」

眼帯の人が表情を変えずに尋ねます。

「俺はこの家に1人で住んでいて何不自由なく暮らしている…でも、毎日毎日同じことの繰り返しで生きているのが辛いんだよ!
だから早く殺してくれ!!
俺を殺してくれたらこの家も俺の財産もすべて君に渡すよ!!
だから殺してくれ!」

「そんなに死にたかったら自分で死ねば」

少女がぼそっと呟きます。

「もちろん何度も自殺しようとしたさ!
だけど、いざ死ぬとなるとやっぱり死ぬのが怖くて怖くて結局死ねなくて…さぁ、お願いします!
悪い話じゃないはずです!」

「…申し訳ありませんが、お断りします」

「な、なんで!?
どうして!?」

「私は人をそう簡単には殺せません。
私は…神様でもなければ神様にもなりたくないですから」

眼帯の人はちょっと微笑むと再び歩き始めました。
その後に続くように少女も歩き始めました。

「待ってくれ!!
た、頼む!! 頼むから!!!」

男は2人を引き止めようとしました。
しかし、2人が振り返ることはもうありませんでした。

森の中にはいつまでも男の声が響いていました。


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