海螢(美奈子の場合)-4
涙が体中から溢れてくるような朦朧とした意識のまま、いつのまにか体の中がゆらゆらと揺れな
がら、深い海底に引きずり込まれていく。
ゴツゴツとした海底だったのだろうか…いや、鎖で縛られた体のまま海の底に沈んだ美奈子の体
は、不気味に広がる髑髏の中に埋もれていた。そして、青白い無数のウミホタルが身動きできな
い美奈子の体のまわりに、キラキラと妖しい瞬きを繰り返しながら、その散りばめられた光が
響き合うように漂う。
やがて燦爛と輝いた光は、縛られた美奈子の体の上で渦を巻き、まるでペ○スを模ったような
淫猥な形になり、陰部の奥深くまで忍び込んでくる。ウミホタルは美奈子の性器の中で激しく
蠢き、膣襞を噛むように吸いつく。
髑髏に覆われた海底で、光の束となったウミホタルが美奈子を犯し、やがて青白い精液となって
美奈子の子宮を駆け上がった。
もっと…もっと、性器の肉襞が剥がれるくらい激しく、そのウミホタルに犯して欲しかった。
心の中に、ウミホタルの光とヒロユキのあの瞳を操るようなムラタの顔が見え隠れした。
なぜか涙が美奈子の頬に流れ出る…。その涙が深海に漂い始めると、音もなくウミホタルが涙に
群がっていった。
ムラタと体を重ねた日には、必ずあのウミホタルの夢を見た。ベッドの中でうなされ、のたうち、
陰部を蜜液で濡らした。
なぜだかわからなかった…。
ムラタに縛られたいと思った。縛られた体の隅々の肌まで、鞭で引き裂かれ、蝋燭の炎で陰部を
炙られるような痛みが欲しかった。恥辱と嗜虐を尽くされることで、すべてを忘れ、自分の花芯
の中を狂おしく蜜汁で潤すことができるかもしれないと美奈子は思っていた。
季節はずれの生あたたかい風が吹いてくる。高台にあるこのマンションの十二階の窓の前を遮る
ものは何もなく、なだらかな丘陵の先にぎっしりと街並みが広がり、その先にはどこか懐かしい
海がうっすらと見える。
美奈子は朝起きたときのままの下着姿で、バルコニーに佇みながら煙草に火をつけた。
三十歳を過ぎたあのころ、ヒロユキが死んだあとにぽっかり穴の空いた心…そして、ひとりぼっ
ちの女の体の寂しさが、その穴の暗がりをゆらゆらと漂い始めていた。
都会のいつもの喧騒は聞こえてこなかった。見慣れたこの風景をじっと見つめていると、なぜか
胸を掻きむしりたくなるような自己嫌悪に陥る。
ムラタとは五年前に別れた…。別れた理由もなかったし、ムラタと関係を続けていく理由もなか
った。あのウミホタルの夢を見るために、美奈子はムラタのいつまでも勃起しないペ○スを、涎
のような蜜汁に湿った花肉の粘膜で包み続けた。
ただ、それだけだった…。