バレンタインデー-2
とうとう2月14日がやって来た。
「結愛ぁ〜。俺には無ぇの?」
なぜか里津が隣にいる。
放課後のこの時間、先輩はいつもあたしらの教室の前を通るのは確認済みだ。
ラッピングした手作りチョコレートを小さな紙袋に入れて用意は整っている。
あたしは廊下に出て外を眺めるフリをして先輩を待った。
ていうことで里津がものすごい邪魔なんだよね。
「はい、どーぞ」
透明のビニール袋を里津に渡す。
「中身は一緒だから。さ、これ持ってとっとと消えな!」
「ぇええ!見た目の扱いが全然違うじゃねえかよ!」
「貰えるだけありがたいと思えっ」
「いやだーっ!俺もそっちがいいーっ!」
里津はそう駄々をこねながら、あたしが持っている紙袋を指差す。
「うるっさい!先輩来ちゃうから、まじでどっか行ってよ。行かないとそれも没収するよ!?」
「それもいやだーっ!零組には入りたくなーいっ」
「知らないよ!ねぇまじでお願いだからさ、里津どっか…」
向こうから二人歩いてくるのが見えた。
一人は先輩だ。間違いない。
先輩も友達と一緒なんだ。
里津もあたしの視線の先に気付いて振り返る。
この際仕方ない。
先輩とどっか人のいないとこに移動しよ…。
全部がスローモーションに見える。
しーんとした世界であたしの心臓の音だけうるさい。
先輩が笑っている。何話してるんだろう。
ギュウッと強く紙袋の紐を握る。
バクンバクンと心臓が大きく動いて、息をするのもきつい。
大丈夫。
今日を私の特別な日にするんだ。
先輩がどんどん近くなる。
「オレさぶっちゃけ」
先輩の声が微かに耳に入ってくる。
話し掛けなきゃ。
今、話し掛けなきゃ。
「…あの」
「バレンタインで告る女まじで引くんだよね」
同時だった。完全にあたしの声はかき消されたけど、先輩の声はしっかり聞こえた。
あたしは現実に叩きつけられた気がした。
あたし達の前を笑いながらすっと通り過ぎていく。
「確かに!知らない女だと尚更じゃねぇ?手作りとかしちゃってさ」
「うっわぁ。重いわぁ」
無意識に紙袋を後ろに隠した。
恥ずかしい、あたし。
バッカみたい。それ、もろあたしじゃん。
何がバレンタイン、何が特別な日…。