『It's A Wonderful World 4 』 -7
「ふふふ、これでいよいよ後には引けなくなったな、シュンよ」
なぜか嬉しそうなマサキ。
「なんでだ」
「仁美さんに相応しい男になるため、ダメ親父に代わって家計を支えるため、勉強しろ、シュン!」
「ヒトの父親をダメとか言うな、ダメだけど」
それを聞いたマサキは目をくわっと見開いて反論する。
「じゃあ、あのダメ親父が信用できんのか! 俺、昔よくオマエの親父に言われてパチスロ屋の開店前の抽選に並ばされたんだぞ! 報酬500円とかで」
「ふっ、そんなの、僕もよくやらされたさ」
「かっこつけるとこか!」
そうだ、あの親父はダメな親父なんだ。
あれは、僕が小学生の頃……。
珍しく親父が外食に連れて行ってくれたんだ。
「なんでも食べなさい、シュン」
「でも、おとうさん。ここすごく高そうだよ」
「ははは。馬鹿だなあ、シュンは。そんなこと気にしなくていいんだよ。今日は特別さ」
「ほんとうに? じゃあ、僕このペキンんなんとかって鳥がいい!」
「お、ペキンダックに目をつけるなんて、シュンは将来大物になるぞー。ははは」
そうして僕たちは、豪勢な食事を堪能したんだ……。
でも、食事を終えたとき。
「……ははは、シュン。食事おいしかったか?」
心なしか、父は青ざめていた。
「うん。今日はありがとう、お父さん! すごく美味しかったよ」
「そうか、そうか。それはよかった。……ところでシュンよ。父さんは、とっても大切なお話をしなきゃいけない」
「え、何?」
「実はな、父さん。サイフを家に忘れたんだ」
「え、お父さん?」
「聞こえなかったか? 父さんは、今サイフを持ってないんだ。ここのお会計ができないんだよ」
真面目な顔でそう言う父。
僕はメニューに書いてあったゼロが並びまくった法外な値段を思い出していた。
「おおおおおおおおお父さん!?」
「悪い。父さんにはもう、オマエを香港に売り飛ばすことくらいしか思いつかん……」
「ほほほほほほほほほホンコン!?」
「あっちの金持ちにはショタコンっていう人たちがいてだな」
「しょしょしょたこんって何!?」
「……悪いが、父さんにはとても言えん」
「言ってくれよ!!! 余計気になるよ!!!」
「恐ろしいか、シュン」
「恐ろしいよ!」
正直言って、もらしていた。
ホンコンって何処!?
しょたこんって何!?
つうか、小学生にショタコンとか言うアイツの神経はいかに!?
そんな恐怖のどん底にいた僕を見て、父親はあざ笑うかのように言ったんだ。