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海螢
【SM 官能小説】

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海螢(久美子の場合)-4

ふと、郵便局の窓口で会ったあの男の客の顔が脳裏をよぎる。


久しぶりに肌に感じた男性の視線だった。


どうしてだろう…。

髪を短く切った四十歳くらいの無口そうな男だった。
黒いジャケットを着た、がっしりとした体つき…そして、その体格とは少し不似合いな、どこか
愁いを湛えたような深い瞳が印象的だった。

その男は久美子の唇や首筋、そして胸元を舐めるように見ていた。男の視線に嫌らしさを感じる
ことはなく、どちらかというと久美子の中に、どこか心地よい疼きをふわりと広がらせてくれた。


二週間ごとに預金するその男に、上司からは保険を勧めるように指示されていた。
相談ブースの中に導いたその男は、久美子が保険の説明をするあいだも、足首から太腿…そして
ブラウスの胸のふくらみまで衣服を透かすように見つめ、久美子の体にどこかに謎めいた視線を
絡ませてくるようだった。




そして、足元に置いたあの黒い鞄…



…久美ちゃん、あのお客さん、保険の契約できそうかな…え、まだだって…うーん、頑張ってよ。
うちの店もノルマってものがあるのよ…お客さん、けっこう預金持ってるじゃない…

頭髪の薄くなった中年の上司が、閉店後に久美子の背後から声をかける。




風呂上がりに、小さな缶ビールを一缶だけ飲む。携帯には誰からの電話もメールもなかった。
一通の手紙を手に取る。昔から世話好きの叔母からはお見合いをすすめられている。封筒に相手
の写真を入れておいたという叔母の手紙だが、写真を見ることもなくテレビの上に置く。


なぜか、そのお見合い相手の写真を見る気持ちにはならなかった。


寂しくないといったら嘘になる。こころの傷と体の寂しさが交錯し、自分の中に沈殿したまま鉛
のように重くなっていく。

恋をしたいというより、だれかに自分を強く受け止めて欲しいときがある。どこまでも深いその
胸に抱かれ、心と性がひたひたと溢れるような泉で充たされたいと思うことがある。


男性を受け入れることがずっと怖かった…でも…自分の中の傷を癒す方法は、この体の中に激し
すぎるほどの疼きを求めるしかないような気がした。


夜にベッドの中で性器に指を触れるときの虚しさは、どこか息苦しささえ伴い、ひしひしと体全
体に迫ってくる。


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