帰って来た男=恋敵出現!?-1
1 世の中、どうも良いことばかり起こるんじゃないみたいだ。
はぁ、でもまさか、アイツが帰ってくるなんて……どうしよう。
『帰って来た男=恋敵出現!?』
今日は日本全国の小、中、高の学校に行っている生徒諸君にとって、一年でも有数の『来てほしくない』日だ。アタシの部屋のカレンダーは八月のページ。日付は……31。
そう、今日で夏休みは終わる。
……え?プールの話、してないのに夏休みを終らせるな?
そんなの知らねぇよ。ヘタレに言ってくれ。
だいたい、アタシの水着姿を見ていいのは憲だけだ!!
と、馬鹿な話はここで終わり。
今、アタシは憲とアタシの部屋でアルバムを見ている。
この夏休みで結構写真とか撮ったし、憲が一度アタシの昔の写真が見たいなんて言い出したからだ。
「へ〜、女子中だったんだな」
アタシの中学の入学式の写真を見て、憲が呟いた。中学の校門前で、アタシと母さんが写ってる。父親も写ってたけど、破いてやった。父親の写ってる写真は一枚もアルバムには入ってない。
「そ、母さんが勉強できるからってほぼ無理矢理な。……でも、今はちょっと感謝してる」
「男嫌いになったからか?」
「まぁね。共学行ってたら……」
よそう、自分で考えても悲惨な感じがする。
「ふ〜ん……そういや、白雪のお母さんって、何やってる人なんだ?確か……フランスにいるんだろ?」
そう、憲の言うとおり、母さんはフランスにいる。アタシは一人でこの家に住んでるのだ。
寂しくはない。たまに憲とか麻衣が泊まるし……。
……憲と何してたとか、その辺は勝手に想像してくれ。いつかヘタレが書くかもしんないけど……。
「母さんはジュエリーデザイナーなんだ」
「へぇ…」
結婚する前の母さんは名の知れたデザイナーだったが、宝石商だった父親と結婚してからは、たまにしか仕事をしなくなった。ところが知っての通り、父親が愛人作って出ていき、母さんは離婚を機に現場復帰。
それから、中三まではこっちにいたが仕事の関係でフランスに行った。
「ん……これは誰?小さい白雪と手ぇ繋いでるの」
憲が指さす写真には、幼稚園に通ってた頃のアタシとアイツが写ってる。
「あぁ、それは………」
ピンポーン……
「ありゃ、誰だろ。ちょっと出てくるな」
「うん、わかった」
憲を置いて、アタシは玄関に向かう。
「はぁーい、どちら様で……」
「白雪ぃ!」
そう言って、その『男』は抱きついてきた。
「た、孝之ぃ!?な、なんでお前がいるんだ!?」
「何だよぅ、冷たいぞ。せっかく帰ってきたってのに」
……帰ってくるなよ、憲がいるのに。猛烈に不安になってきた。
「大丈夫だったかぁ!?俺はもう心配で心配で」
「わかったから、離せ!抱きつくな!!胸に顔を押し付けるなぁ!!!」
「けけけ、やらかいのぅ」
「この、離せぇ!!」
「ぐはっ」
孝之の熱い抱擁をふりほどくためにアタシは、孝之のみぞおちに膝蹴りを喰らわした。
「はぁ…はぁ…はぁ…ったく」
「……白雪?誰だ、そいつ」
「け、憲!?あ、いやそのあの……み、見てたのか?」
いきなり憲が後ろから声をかけられて、アタシは跳び上がる。
「……あぁ、そいつがお前の胸に顔を埋めてた辺りから」
心なしか、顔が青ざめてる。って、よりにもよって、そこから見てたのかよ
「ま、まさか、元カ…」
「おっ!君が白雪の彼氏の憲くん?いやぁ、君の事は白雪からの手紙で良く知ってるよ!」
そう言いながら、憲の手を取る孝之。すげぇ勢いで握手してる。つーか、いつのまに回復したんだ?
「俺、白雪の双子の兄の孝之。よろしく!」
はぁ、なんでいきなり帰ってくるんだ……。
「ごめんなぁ、急にアイツ帰って来やがって。なんか追い返すみたいになっちゃってさ。」
「気にすんなよ。俺が帰る、って言い出したんだから。久しぶりの兄妹対面らしいしね」
そう、結局、憲は久しぶりに帰って来た孝之に遠慮して、帰ることにしちゃったのだ。あ〜あ、もっと一緒にいたかったのに!
「そんなすねた顔すんな。…明日からも乗るんだろ?」
「…もちろん!」
「だろ?明日なんてすぐ来るよ」
……どうやら、考えてた事は憲にはお見通しだったみたいだ。
「じゃあ、また明日な」
「また明日!」
そんなこんなで、憲は帰ってしまった。
「……で、何でお前だけ帰って来たんだ?」
「超が百個付いても足りないくらいの男嫌いな白雪に恋人が出来たと聞いたら、双子の兄として気になるじゃんか」
緑茶をすすりながら、事もなげに孝之はそう言った。
「まさか…孝之、お前」
「……何だよ?あ、もしかして、昔みたいにならないかと心配してんの?」
うぐっ、ズバリ的中。
孝之がからんでくるとなると、憲が心配でたまらない。
「心配すんなよ〜。『多分』昔みたいにはならないから」
「『多分』ってなんだ!?『多分』って!!」
「だから、『多分』だって。…あぁ、そうそう俺もしばらくはこっちの学校通うから」
……………。
「なぁんだとーーーー!?」
「そんなデかい声出すなよ。母さんに言われたんだよ。逆らえないだろ?」
うっ、確かに母さんには逆らえない。逆らったら………うぅ、悲惨な想像をしてしまった。
そんな訳で、悩みの種は尽きそうもなかった。