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【推理 推理小説】

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4th_Story〜手紙と2筋の涙〜-8

5.暗号(その4)

 皐市は、辺り一面に民家が建ち並ぶ住宅街である。それでも公害に悩まされる事が少ないのは、車で通るには不便な細い道が多い事と、そのままの自然が残されている事が理由に挙げられる。青々と生い茂る草木が、空気を清浄化させるのだ。しかし、一度街の外れに出てしまうと、そこには、廃墟や朽ち果てた建物が並び、皐市の市民もほとんど立ち入る事の無い、荒れた地となってしまっている。その中に、皐市3丁目18番2号の住所が示す土地があった。
 そこには、1棟の家屋らしき物が建っていた。天井は既に崩れ落ちており、窓に嵌められていたであろうガラスが、無残な姿で一面に残っている。床のコンクリートには焦げた跡もあり、まさに廃墟と言わざるを得ない状態である。家具も、その殆どが原型を留めていない。唯一、引き出しのついた机だけが、そのままの形で残っていた。その引き出しを開ける。そこには、やはり封筒が1通。差出人はΧ。
「男と女。右と左。表と裏。艮と巽。青竜と白虎。朱雀と玄武。全ての交わり。1つの重なり」
 黄依がその手紙の内容を読み上げる。裏には何も書いていない。
「うしとらとたつみってなんだ?」
 艮と巽。聞き馴染みの無い言葉に、里紅が眉をひそめる。
「方角を干支で考えてみたら?」
「干支?」
「そう」
 北が子。北北東が丑。東北東が寅。そのように当てはめていけば、自ずと答えは出てくる。
「そっか、丑と寅の間だからうしとらか。つまり北東の方角って事だな」
「そ。たつみも辰と巳の間だから南西」
 しかし、それが分かっても、暗号自体を解読出来た訳ではない。太陽は沈みかけ、辺りは既に薄暗くなってきた。蒼は無事だろうか。そんな事ばかりが頭を過ぎる。
「青竜と白虎、朱雀と玄武……」
「ん?」
 里紅が呟いた。そして、何かが閃いた様に目を瞠る。
「対角線だ」
「対角線?」
「黄依、地図見せてくれ」
「地図?」
 携帯を取り出し、この辺り一帯の地図を表示させた。里紅が携帯を受け取り、操作する。
「暗号の言葉は、全部対義語の組み合わせなんだ」
「うん」
「全ての交わり。これが示してるのは、対角線の事だ」 
「うん」
「1つの重なり。これは、対角線が重なった点、つまり、中心の事を指してる」
 そして、携帯画面を黄依に見せる。
「それに、今まで手紙があった場所を辿ると、四角形になってるんだ。だから、その対角線を結んでやれば、ほら」
 月白公園とこの廃墟、里紅の家と皐神社。それぞれを結んだ線が交わる所にあるのは――。
「菖蒲中学校」
「そうだ」
 それぞれの手紙が示す場所の距離が同じだったのも、全てはこの暗号の為という訳だ。
「行こう。きっと今度こそ犯人がいる」
「うん」
 これが最後の暗号である事を願って。里紅達は菖蒲中学校へと走り出す。


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