風待つ島-4
昼間は自由が与えられていたが、ドアの外には交代で見張りがついていた。だが夜になれば、毎晩必ず高手小手に足首も縛り上げられて猿轡を噛まされる。最初の晩と同じように。ロープが緩められたり巻かれる数が減ることはなかった。
だが人間の適応力のなせる業か、きつく縛り上げられた姿勢のままでも私は少しずつ眠れるようになった。夢の中では自由だ。歩き回ったり、好きな物を手に取ったり、話しかけたりできる。そして目が覚めた瞬間に、すべては夢だと悟る。手も足も縄をきつく巻かれて、口も塞がれている自分の惨めな姿を思い知るのだ。縄で体を縛られることは、心を縛られることでもあった。いつしか夜の夢までが縛り上げられていく。気持ちがだんだんと萎えていくのだ。
折檻の恐怖もあった。あれから私は、些細なことで何回か折檻を受けた。その激しい鞭打ちは、私をひるませるに十分な効果があった。
あの漁師の男は、縄と鞭の効果を十分に計算していた。
その朝目覚めると、部屋の鍵を開ける音がする。ほどなく漁師の男が大きな旅行カバンを持って入ってきた。そしてその旅行カバンのジッパーを開けた。まるで旅支度でもするかのように、私をそのカバンの中に押し込むつもりなのだろう。私は荷物にまで堕ちてしまった自分を妙に冷ややかに受け止めていた。
男は私を抱きかかえると、まず縛られたままの私の上半身を仰向けにして、開けたカバンの上にそっと降ろした。それからしばし考えていたが、答えが見つかったとばかりに今度はカバンの中の私の体を横向きにさせた。背中をカバンの縁に沿わせると、膝で折りたたんだ爪先までもがカバンに収まった。それからジッパーをゆっくり閉め始めた。あたりが真っ暗になった。私の眼の位置からは、通風のための小さな隙間から差し込む光だけが見えた。
そのとき、足音が聞こえた。
「お待たせしました。これが、その商品です」
漁師の男の口調はいままでに聞いたことのないものだった。目上相手に明らかに緊張している。
「よくやった。漁船で山口まで行けるか?」
「山口、ですか?」
「そうだ、山口で出荷だ」
なんとかこの闇の男の正体が知りたい。せめてこの眼で見たい。私は手足を縛られたまま必死にもがいたが、旅行カバンの中ではどうすることもできなかった。
「風が収まったら出るぞ」
「なあに、すぐに収まりますよ。この島はそういう島なんです。ずっと昔から」