「運命」-1
「運命」
ザーンザーンと波の音が単調にと果てしなく繰り返されていた。
天気は底抜けによく、フェリーの他の客も何となくデッキに出て海を眺めている。
見渡す限りの海、とはいかない。船の右側にはずっと島国日本が見えている。
それを見て俺は何となくこの国から離れられない息苦しさを感じてしまった。
ずっと考えたこともなかったが、こうなってしまうといっそ国外にまでも逃げ出してしまいたくなる。
「中に戻ってご飯でも食べる?」
俺は横についてくる母の言葉に能天気さというか、肝の据わった態度に心の奥で呆れつつも感心していた。
夜明け前まであんなにも真剣に話し合ったとは思えない。
一度こうと決めてしまったら後は必ずやり通す母らしいといえばそうかもしれない。一度覚悟を決めてしまったらもう後は悩まないのだ。
たしかに朝ごはんも満足に食べないで、早朝に出てきたから腹は減っている。
俺は力なく頷きながら船内に入っていった。
船はやがてゆっくりと三重の鳥羽に近づいて行った。
アナウンスがあって、乗客らは各々の荷物を確認すると船旅の疲れからかのろのろと降りていく。
僕らもやがてその一団に混じって知らない町の港に降り立った。
「あぁ〜、潮の匂いがすごい」
「そりゃあ、港だからね」
「とりあえず晩御飯にする?」
「さっき食べたばかりじゃん‥それよりホテル探さないと」
「港町だからきっと新鮮よ」
「ちょっと‥本当に食べるの?」
そう言いながら母は一人でどんどん歩いて行って近くの魚市場内に入ってしまった。
気忙しく行き来しているイメージの市場だが午後の市場にはろくに店も出ていない。
人気のない市場で少し母は残念そうだったが、気を取り直して市場の建物内の端にあるいかにも漁師御用達の食堂に入っていった。
たしかに美味しかった。
それは認める。しかし‥。
「そろそろ…今夜泊まるところを決めないといけないわね」
「だから言ったじゃん。もう‥」
10月の午後7時はもうかなり暗くなってきている。
歩き出すにもまったく土地勘がないので移動のしようがなかった。
俺達は仕方なく港近くの民宿に飛び込んで一夜をやり過ごすことにした。
「ふぅ‥いいお風呂だった」
まだ乾いていない髪をタオルで拭きながら母が部屋に戻ってくる。
「温泉でもないただの内風呂じゃん」
「気分の問題よ。潮風でベタベタだったし。アキも入ってきたら?」
「…あぁ、ちょっと行ってくる」
古い民宿の風呂は宿共通で使っているものだった。
サイズが少し大きなだけで、本当にこれといって特徴もない。
入浴剤すら入っていないのはある意味清々しい。
たしかに、一日フェリーで過ごしたから十分気持ちいい。
「ふぅ〜」
両脚を伸ばして、両手でお湯を救って顔を洗うと自然とため息が漏れる。
考えないといけない事はたくさんある。